224. 青春はいつも少し苦い
その日の放課後、俺と北本は教室の外で白川が来るのを待っていた。
「結局プレゼントは"あれ"を用意したんですか」
「う、うん・・・」
俺は右手でポケットの中のそれを確認する。
北本はいつにも増して冷めた顔をして言う。
「しかし冷静に考えてみるとあんなものを誕生日プレゼントとして渡せるって、かなりのナルシストですよね」
「ちがうわ!違うけど・・・」
あれの発祥は苦し紛れで、というわけにも行かず黙るしかない。
「でもみんな喜んでるから良いんだよ」
そんなことをよく恥ずかしげもなく堂々と言えるものだと自分でも思う。
「・・・恐れ入ります」
「どういう意味だそれは・・・、っと佐々木から連絡きたわ。順と先に図書室いるって」
こくんとうなずく北本。
「お待たせしました~」
白川がひょこっと教室後ろのドアから出てきたのはそれからすぐのことだった。
「お誕生日おめでとーー!!」
白川が部室に着いた瞬間、先にいた組の順・佐々木が前から、一緒に来た俺と北本は後ろからちょうど白川を挟むようにしてクラッカーを鳴らした。
佐々木が素早く机の上の箱を開ける。
「わぁ」
白川は生クリームの乗ったホールのガトーショコラを見て両手で口元を抑えて喜んでいる。
「わたしたちからの誕生日プレゼント!」
佐々木は順と北本を左右で引き寄せてそう言う。順はいつもどおりのかわいらしい笑顔。さしもの北本もこの時ばかりは照れつつも嬉しそうな顔をしている。
「ありがとうございます!佐々木さん、順さん、北本さん!」
白川はひとりずつ名前を言いながらその人の目を見てお礼を言う。今にも抱きしめそうなほど嬉しそうにしているのがわかってこちらも思わず口元がほころぶ。
佐々木がちらっと俺を見たのをきっかけに他の人の視線がこちらを向く。そりゃそうだ、俺だけ何もしていない。
「おめでとう、白川」
正直色々考えたんだとか、みんなに聞いてこれにしたとか、ぐちぐち言いたい気持ちもあった。でもなんかそんな人にもらうプレゼントは嫌じゃないかと思えてきた。
はっきり言って北本の言う通りろくなプレゼントじゃない。でも、こうも思った。このプレゼントを白川は喜んでくれるんじゃないか。
いや、喜んでほしいと思った。まさにナルシスト、自信過剰、異常者と言われても仕方ない。まともな精神ならこんな自分への自信満々のプレゼントを渡すなんてことはできない。
「これ・・・」
「ルールは北本と佐々木のときと同じでルールはない。俺にしてほしいことを何でも命令してくれ」
白川は俺から渡されたノートの切れ端をじっと見つめる。初代と2代目よりはいくらかきれいに切られているその切れ端には相変わらずぶっきらぼうな字で「何でも券」と書いてある。
「まぁ、その、期限とかないから。あれだ、日直変わってとかでもいいから」
無言の時間が耐えられなくなって思いついた適当な言葉を並べる。
「・・・わかりました」
白川はその紙切れを丁寧に自分の財布にしまっていた。そこまでするのかよと思ったのは内緒だ。
「斉藤くん、ありがとうございます!近いうちにお願いしますね!!」
笑顔の白川がまっすぐ俺を見てくる。
さっきから恥ずかしくてつい目から視線を外していたのだが、最後の最後で目が合った。なんだか久しぶりに白川の目を見た、そんな気がした。
ふと思った。俺は白川に喜んでもらいたくてプレゼントを選んだのだろうか。それとも「白川が俺のプレゼント喜んでくれる」ということを確認したくてプレゼントを選んだのだろうか。
白川は優しい。絶対に喜んでくれる。
俺はそのことに甘えているのではないか。
いやいや、俺はうつむき頭を振る。順にも言われたではないか。せっかくの誕生日パーティーに辛気臭い顔をするなんて失礼だ。
俺は佐々木が切り分けてくれたケーキを一口食べる。
女子の会話を聞きながら食べたガトーショコラはとても甘く、そしてちょうどいい苦味があってとても美味しかった。
ガトーショコラと頭に浮かぶどうしようもない考えを、ブラックコーヒーで流し込んだ。
いつもよりも饒舌な白川がパーティーを大いに盛り上げ、温かい空気に包まれたまま、無事パーティーは成功を収めた。
その日の夜、20時ごろ、スマホに通知が届く。
「どう言おうか悩みました。けど、率直にいいます。来週の日曜、私とおでかけしてください」
じっと画面を見る。「了解。よろしくお願いします」と返事をする。
はしゃいでいる猫のキャラクターのスタンプが白川から帰ってきたのはそれから10秒もかからなかった。




