223. 男の嫉妬はかわいくないぞ
放課後、俺はできるだけ自分の心のブレを悟られないよう平静を装うことを心がけた。こういう時、日頃からテンションが高くないキャラは役に立つ。言葉数が減っても相手にはバレないはずである。
だが得てしてそういう希望的観測は外れる。部活時間後の帰り道、白川と北本と佐々木が明日の模試の話をしているのを後ろで聞いていると制服の袖を横から引っ張られた。
左下に視線をやると順がこちらを見ている。
順に引っ張られるまま歩く速度を落とす。
「ねぇ、何かあったの?」
順はそう言いながら少し距離ができた前方を行くグループの方をちらりと見る。
「いや別に」
急いで否定して焦っている感を出さないよう気をつけながらも、すっと否定する。
「うそ、白川ちゃんと何かあったでしょ」
「ないって。むしろなんでそう思うんだ」
「今日変だったもん、まあくん。人と目を合わせないのはいつものことだけど今日は特に白川ちゃんと話している時全然そっちに体向けなかったもん」
「・・・」
体のことを言われると困る。言葉は自分では上手くやっているつもりでも体は正直自分ではよくわからない。
「けんか、ってわけでもないよね?」
「違う」
「だよね、白川ちゃんが普通だもん、普通ってのもちがうけど・・・・・・」
もうほとんど何かがあったことは認めてしまっている格好になっているが、あそこですぐに否定できなかった時点で認めているようなものだろう。
「別になにか問題があったとかそういうわけじゃないから順は気にするな」
無理やり話を断ち切ろうと試みる。
「ほんとかなぁ?」
怪訝な顔をする順に俺はうなずく。
「来週白川ちゃんの誕生日なんだから、それまでには普通になっていなよ」
「わかったわかった」
と反射的に答えたが、正直自信は無い。第一『普通』が何を指しているものなのかも自分ではよくわかっていない。
「それより、なんで順は、その、わかったんだ?わかるもんなの?」
靴箱に通じる階段を下りながら聞いてみる。
「・・・わかる、わかるよそりゃね、いつもと違ったら」
一瞬、順の表情が曇ったように見えたがすぐにいつもの順に戻る。
「佐々木とか北本にもバレてるかな」
「うん、たぶんね。あの2人ならわたしよりも先に気づいていそう」
「そ、そうなんだ」
思わず苦笑いをする。
「・・・こういうことは鋭いんだよ、女は」
順はそんなことを言い残して自分の靴箱の方に行ってしまった。
足元から震えが止まらないのは玄関が寒いからだろうか。
もちろん翌日の模試の出来は言うに及ばず。なんとも言えない気持ちの重さを心の奥の角の隅の端に感じながら、次第に白川の誕生日というイベントがもっとも大きな関心ごとになっていった。
数日後、白川の誕生日当日。現在昼休み。白川以外のメンバーで放課後の最終調整を行っていた。
気づいたら誕生日はしっかり祝うようになっていた我が部活。正直俺は未だに少し小っ恥ずかしいのだが、他の女子たちがノリノリだから完全に流されている。
そんなノリノリの俺たちは密かに白川の誕生日の作戦を練っていた。女子たちは前日に誰かの家かどこかに集まって、みんなでガトーショコラのケーキを作るらしい。俺もその中に入って全員からのプレゼントということにしようと一瞬思ったが、さすがにケーキづくりで戦力外になることしか考えられない。
だから俺はみんなに聞いた。
「あのぉ、白川が俺からもらったら嬉しいものって何だと思う?」
「「「・・・・・・」」」
北本・佐々木・順は顔を見合わせる。
「そりゃあ"あれ"でしょ」
「"あれ"だね」
「・・・」
佐々木と順は間髪入れずに"あれ"という。北本は黙っているが、"あれ"の正体はわかっているようだ。
「あれ・・・?」




