215. 病気っていうの絶対嘘だろ
深い睡眠から目が覚める。伸びをしながら眺めた窓から見える外の色でもう昼とは言えない時間になったとわかった。
スマホを見る。メッセージはない。彼女ならきっと来る前に連絡してくれる。とりあえず寝過ごして気が付かなかったということはなかったと一安心する。よいしょと立ち上がり眼鏡をかけて飲み物を取りに部屋を出て下の階へ向かった。
階段を降りながら、かなり体調が良くなったことを自覚した。体の重さを感じないし、頭も痛くない。げに高校生の回復力は素晴らしい。
お見舞いに来てもらわなくてもいいくらい元気になったような気もしないでもないが、正直にいってお見舞いに来てくれるのはとても嬉しい。
俺は寝ている間に失われた水分を一気に補給し、出ていった水分が吸収されたシャツを脱いで洗濯機に放り込む。
次に何を着ようかと考えた時に動きが止まる。お見舞いをされる側のお作法というのがいまいちわからない。もちろん体調が悪いときは漫画でよく見るような、病人フォームで布団にくるまりながら顔を出して弱々しい声で会話するのが正しい作法なのか?
だが今の俺はまぁまぁ元気だ。元気になってしまったと言ったら変だが、元気なせいでステレオタイプなお見舞いの構図を取りにくい。
・・・。いかん上半身裸でいていい季節と体調ではない。とりあえず寝間着でいいや。布団には、まぁ入らないでいいだろう。
自分の部屋に戻り、新しいシャツに着替えてリビングに戻る。
しばらくワイドショーとニュースの中間のような番組を見ていると待ちに待った連絡がきた。
『今から4人で伺います。』
送り主は北本。
俺は間髪入れずに『了解です』と返信。
そこからみんなが来るまでの10分間はテレビを見ることもせず、ただただじっと座っていた。
リビングに暖房を入れたせいか心が熱い。しかし体温計は平熱を示している。まるでさっきまでとは正反対の状態だなと思いながらピンポンがなるまでスマホを握りしめてみんなが来るのを待っていた。
ピンポーン。呼び鈴が大きく響く。俺は急いでインターホンの映像モニターに駆け寄り応答ボタンを押す。
『はーい』
『こんにちは、白川です。斉藤くんですか?』
いつもの白川の絹のような柔らかい声だ。
『そうだよ』
『お身体はどうですか?』
『大丈夫。とりあえず上がって』
俺は返事を聞くこともせずに玄関へ向かう。
「どうも」
玄関の扉を開けながらみんなを視認する前に挨拶をする。
「あ、まさくん!」
インターホンを覗く白川の肩越しに佐々木が飛び跳ねる。それを見て思わず顔がほころぶ。
「元気そうですね、もしかして仮病ですか?」
微笑みながら毒を吐く北本。
「まあくん家にひとり?」
鋭いことをさらっと言う順。
「そうなの。だから良ければうち入って」
努めて自然に提案したつもりだ。
「寂しいんだ」
が、すぐに順に看破され、にやにやと笑いながらそんなことを言われてしまう。
「・・・どうだろ」
図星を突かれて少し気恥ずかしくなり背を向ける。でもそんな気持ちもなんだか嫌ではなく、むしろ心地よかった。
玄関の扉を開ききってから靴を脱いでみんなが来るのを待つ。
インターホンから玄関までの短い通路がこのときはなぜか長く見えた。みんなが列をなして俺のいる側に来てくれる。はやくこっちに来てくれという気持ちがその通路を長くさせたのかもしれない。




