212. 無音のベッド上
・・・。
手に持っていたスマホのバイブレーションで目が覚める。時刻は正午過ぎ。どうやらそのまま寝てしまったようだ。
頭の下敷きになってしびれた指先でロックを解除し、開きっぱなしのニュースアプリを閉じつつ通知内容を確認する。
なになに・・・
「寝てる?今日遅くなるから」
パートに出ている母からのメッセージだった。このメッセージの通知で起きたと即座に返信。乱暴にスマホを投げる。
もう正午か、という気持ちと、まだ正午なのかという気持ちが交互に去来する。だが、だんだんとその両方はかき消え、腹が減ったという感情が支配的になる。
いつもだったら図書室で弁当を食べている時間だ。
なんて考えていたら不意に佐々木の顔が浮かぶ。今日はどんなお菓子を持ってきて、どんな話をしてくれるはずだったのだろう。
当然のことであるが、自分がいない空間を自分は知るすべがない。だから俺がいない場合、佐々木や北本や順が昼ご飯の時にどんな話をするのだろうか、予想ができない。というか考えたこともなかった。
白川に関しては昼ごはんのときはひとりクラスに残っているため(と言っても我々がクラスから出ているという言い方が正しいが)、あいつがクラスメイトとどんな話をしているかなんて一回も聞いたことがない。
しかしまぁ、こう冷静に目を向けてみると、俺の学校生活の登場人物はずいぶんと限られているなと思う。今の高校生での登場人物なんて多く見積もっても両手で足りる。どうだろう、他の人もこんなものなのだろうか。
振り返ってみるとこれまでの人生についてもそこまで多様な登場人物が出てくるわけでもない。小学生の頃なんて6年もあるのに記憶に残っている人なんて片手で数えられる程度だ。
そう考えるとこれから先の人生も出会える人はそんなに多くないのだろうな。ましてや深い仲になる人なんているのかも怪しい。
・・・別にいいじゃん。これまでならそう思っていただろう。しかしなぜだろう、今の俺はそのことがとても寂しく感じられた。
目の前のまっ白な壁紙を見て漠然とした心許ない気持ちを感じる。ひとりで部屋にいることがこんなにも落ち着かないものだったっけ?まるで子供の頃スーパーマーケットで親と逸れた時のような足の底からこみ上げる不安感にさいなまれる。
なんだかたまらなくなって、ごまかすようにベッドから出て立ち上がった。氷とは名ばかりのぶよぶよの氷枕を手に持ってドアノブをひねり、真っ白な空間から脱獄した。




