209. 世界に銃口を、過去に鋒を
ただのいち高校生が、えらく長い説教を偉そうにしたもんだ。
幾分勢いが弱まった雨が水たまりに当たる音で、変に冷静になっている自分がいた。
「今、先生になろうと思っている人がすごい少ないって知ってる?」
今の場面に似つかわしくない明るい声が聞こえてきて驚き、慌てたように放生の目を見てしまった。
「え? ええ、まぁ。たまにそんなニュースを見ます」
教師のなり手不足の問題は、教師の不祥事に次いでよくニュースで見かける。
「なんでそうなっているのか、今ようやく少しわかった気がしたよ」
「・・・俺なら絶対に教師になんてなりませんからね。高校生なんて一番生意気でかわいくないし」
「それを斉藤くんが言う!?」
「はは」
生意気代表が言ってるんだから仕方がない。
「・・・でも、怖いな。怖いよ、昔からの夢を直視することは。考え直すことは。諦めることは・・・」
三度、放生の感情のジェットコースターが降下する。
「・・・・・・」
「留年してまでさ、必死に追いかけているのに・・・。ここで諦めたら自分の決断を、親の期待を裏切ることになるんだよ・・・」
「俺は、諦める必要はかならずしもないと思います。さっきも言ったようにこの世の全ては確率、不確定で、環境でどうにでも変わります。表が出やすい環境を見つけることも作ることも不可能じゃないでしょう」
これ以上空気が重くならないよう、努めて明るく、勢いよく喋った。
「でも・・・、でも、だからといって諦めない選択肢を持たないというのは、一番だめだと思っています」
一転ぐっと放生の目を見つめる。
「夢は自分を縛るものじゃない。目標は未来を決めるものじゃない。どちらも灯台のようなもので、方角は示してくれるがそこが目的地とは限らない、と夢も目標も持っていない俺は思っています」
今日一番放生としっかり目が合う。
「夢というものを枷にしないためにも、夢というものを言い訳にしてはいけないはず。あんたの人生は、自分の過去に報いるための人生じゃないでしょ?」
俺はそっと傘を持つ放生の手を包むように両手で上から支える。
「そうだね。そうだね」
「今の夢を目指すも、新たな夢を見つけるも、誰も何も言わないし何も思わない。他人だって、過去の自分だって」
人とのつながり・過去の自分とのつながりは、見ようによっては自分を縛る鎖にも、自分を守るネットにもなりうる。
過去だって夢だって他人だって自分だって、都合よく解釈すれば良い。
だって・・・
「みんな今その瞬間の自分のことで手一杯だから。お互い頑張らないで頑張ればいいさ」




