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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第2章 静と動の狭間
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19. そして家族は訝しむ。



 久しぶり、というほどでもないが4日ぶりに昼休みの図書室に来た。もう慣れたことだが本当に人がいない。最近はじいさんもいないので、俺らが来なけりゃ完全の無人だ。


 「あーやっと来たー。おっそーい。」

 本棚に居た佐々木が駆け足でこちらに来る。


 「もー、遅いから教室まで呼びに行こうかと思っちゃった。」

 てへっと笑う。しかしこちらは背中に冷や汗が流れていた。これからは走って来よう。



 「てか何するつもりなんだ?」

 「うーん、お話?」

 「俺噺家じゃないから持ちネタとか無いんだけど。」

 「いいのいいの。なんかもっとこう、日常の話とかで。」

 「とりあえず座ろうぜ。」

 扉の前で話していても仕方ないのでいつものところへ移動する。


 しかしそこには既に北本がいた。


 「お前いつの間に。」

 「お二人の睦言が始まったあたりで。」

 その言い方やめろ。おい、照れるな佐々木。


 「雫ちゃんはずっと勉強してる感じ?」

 「ええ。そのために来たので。」

 「そうか、じゃあ静かにしないとな。」

 「えー。」

 そう、これが言えるから北本が来てくれて助かったのだ。


 「お気になさらずに。」

 「そうは言っても悪いしなぁ。」

 俺はこの時少しニヤついていたかもしれない。いくら佐々木でも北本の迷惑になるなら俺に絡んでくることはないだろう。勝ちを確信してスマホを取り出す。



 「いえいえ、ほんとに気にしなくていいんですよ。それにさっきおっしゃってたじゃないですか。佐々木さんとお話するのが楽しみだって。」

 「え「ほんと??ならしかたないなあ」

 佐々木の表情が一気に明るくなる。てめえさっきの仕返しか。


 「そんなこと言っt「そこまで期待されたらしょうがないな~。」

 あの、ちょっと。もしもし。


 「今日ねえクッキー焼いてきたの。食べてくれる?」

 ・・・。


 「図書室は飲食禁止だろ。」

 「それはほら、この部屋一応図書室から独立した部屋だし。はい、あーん。」

 待て待て。なんでもありか。


 「わかったわかった。自分で食うから。」

 仕方なく犬の形をしたクッキーを一つ口に入れる。


 ・・・。普通にうまい。

 「普通にうまい。」

 「もーっ、普通ってなに~」

 「いやその、手作りのお菓子なんて初めて食べたから。普通に市販されてるクッキーみたいに美味かった。」

 「ほんと?よかった。わたし料理が趣味なんだ~。」

 こういう女の子っぽいところはしっかり押さえているのは実に佐々木らしい。


 「本当はクラスの人にも配りたいんだけどね…」

 あー。急に湿っぽい話に。

 「お前まだうまく行ってないのか?」


 「ううん。材料が足りなかった。もうみんなと仲良くしてるよ。」

 なんだよ。心配して損した。漫画なら俺は椅子からひっくり返っていただろう。


 「心配してくれてたの?」

 「そりゃ話を聞いてたからな。」

 「優しいね。」

 「いやいや普通だろ。てかお前が話してきたんじゃねーか。」

 「でもその前にまさくんが話しかけてくれたんだよね。」

 「そんな昔のこと、もう忘れた。」

 佐々木はくすくす笑っている。

 でもまあ、佐々木がクラスでうまく行ってるならよかった。

 その後は3人でクッキーを食べて昼休みを過ごした。






 「斉藤くん、俳句の心、学びましょう。」

 「どうした急に。」

 「今日は俳句です。川柳でも短歌でもいいですけど。」

 「ああ、そうだったな。」

 だからって575で話さなくても。


 「俺も少し調べたが俳句は結構縛りがあるんだな。」

  昨日の夜、白川に任せっきりというのも忍びないので一人で少し調べた。


 「そうです。季語とか文体とかが川柳と異なります。しかし実は結構区切りは曖昧らしいですよ。」

 「そうなんだ。まあとりあえずは575の方をやるか。」

 「そうですね。それでは早速やりましょう。」

 「お、やるねえ。」

 「え?あ、今のはたまたまです。」

 「わたしもやる~」

 佐々木も参加してきた。



 しかし戦いはもう始まっている。

 「ちょっと待て、ここでは全部575」

 「え?」

 「え?じゃないです。しっかり守ろう定型詩。」

 白川も頭の回転が速い。すぐにこの戦いのルールを把握した。


 「うーん、うーーーん。」



 苦しむ佐々木。静かでいい。これからずっと575ルールを採用してもいい気になってきた。


 「斉藤くん。何してました?昼休み。」

 げっ。早速白川が仕掛けてきた。しかもあんまり説明したくない。



 「言えないな。三人だけの秘密だし。」

 「まあまあまあ、そうは言わずに少しだけ。」

 「もー!なんでこの二人こんなにぺらぺら575出てくるの?俳句のネイティブスピーカーじゃん~?」

 北本が吹き出す。佐々木のおかしな言い方にはまったらしい。



 「実はだな。佐々木がクッキー焼いてきた。」

 「え~ずるい!私もクッキー食べたいです。」

 「悪いけど、美味くて全部食っちゃった。」

 「ずるいです。私も図書室来ようかな。」

 「やめておけ。お前は友達いるんだし。」

 「冗談です。でもクッキーは食べたかった。」

 「これからは、お前の分も残しとく。」

 「佐々木さん、お待ちしてます次回作。」

 佐々木に振られる。


 「えーとえーと。今度はね、たくさん作ってくるからね!」

 おろおろしながらもなんとか答える姿が微笑ましい。


 「おーやるじゃん。不格好だが575。」

 「その調子、慣れれば簡単このルール。」


 「普通そんなすらすらできないよ!ねえ、雫ちゃん?」

 俺たちの怒涛の攻めに思わず北本に助けを求めたようだ。


 「そうですか?こんなの誰でもできますよ?」

 しかし即裏切られる。


 「うわあああああん。」

 困っている佐々木はとてもかわいらしかった。


 「ああそうだ、これをやるのを忘れてた。」

 スマホを掲げる。みんな理解したようですぐにスマホを取り出す。

 「今日こそは勝ってやります白川に」

 北本もなかなかのやり手だ。



 佐々木は考えている間に違う話題になって全然話せないようだ。


 ・・・。

 麻雀中はみんな静かになった。

 集中していることもあるが麻雀用語と575の親和性があまり良くない。



 ・・・。

 ・・。

 ・。

 「やった!」

 白川が喜ぶ。白川のあがりで試合が決着した。

 画面には白川の最後のあがりの役が表示されていた。




 『リーチツモタンピン三色イーペーコー』






 「意外と面白かったな575。」

 帰り道今日のことを振り返る。


 「そうですね。思ったよりも普通に話せました。」

 「勉強の合間に脳トレとしてやるのもいいかもしれません。」

 3人で盛り上がる後ろで佐々木がすねていた。


 「おかしいよ。そんなにすらすら出てくるものじゃないでしょ普通!?」

 「SSS部の入部条件に追加するか。はっはっはっ。」

 「やめてーーー」

 「でもクッキーが美味かったし特別に免除してやろう。」

 「もう、もっと作ってきてほしいなら素直に言えばいいのに。」

 心を読まれた恥ずかしさからか顔が少し熱くなった。


 「今度は私もご相伴に与りたいです。」

 「そうだね。放課後みんなで食べよう。」



 「じゃあ俺はここ…で・・・。」

 「どうしたの?」

 家の前に着いたとき恐れていたことがついに起きた。

 「お、おにぃ…?」







 「ちょ、ちょっとなにこの人達?なんでおにぃが女の人と一緒に帰ってるの?もしかして・・・お金?」

 「ちげーよ!こいつらは部活が一緒なんだ。それで同じ方角に家があるから一緒に帰ってるんだ。」

 「もしかしてまさくんの妹?」

 「ま、まままさくん!?」

 驚きのあまり妹は卒倒しそうになる。


 「お、おい綾大丈夫か?とりあえず今日はこいつを家にいれるわ。じゃ、じゃあ。」

 みんなの挨拶を聞く前に急いで帰宅した。




 「ちょっとちょっと!あの人なにもの?まさくんなんて随分なれなれしい呼び方して。」

 「え~」

 一通りの話を妹から聞いた母も驚いている。


 「あいつは特殊な人種なんだ。誰とでもすぐ距離を詰めてくる。」

 おかげで苦労もしていたが。


 「でもねえ。」

 「ねえ。」

 「いいだろ別に。」

 「あんたが女の子と仲良くなるなんてお母さんびっくり。」

 実の息子に言うことかそれ。



 「あたしはあの人達信用できない。特にあのちっこい人。」

 お前もおんなじような身長のくせに。

 「とにかくただ同じ部活ってだけだから。」

 そう言って部屋に戻った。


 寝たい気持ちを抑えて勉強机に向かう。

 ・・・。


 眠い。

 因数分解のどこに楽しさを見い出せばよいのだろう。







 ~白川と北本のチャット~


 ・

 ・・

 白川「で、どうでした?」

 北本「えっと、それが上手く聞けませんでした。」

 白川「そうですか。」

 北本「でも、誰も嫌いじゃないみたいです。」

 白川「なら良かったです。ありがとうございました。」

 白川「ところで」

 白川「クッキーって作ったことありますか?」

 ・・

 ・



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