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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第10章 終わりがあるから始められる
208/241

204. 【解決編】




 「わたし、去年もしたんだ、教育実習」

 放生に並ぶように、俺は雨に濡れたベンチに腰を下ろす。ズボン越しにお尻が濡れる感覚があったが、なぜかあまり気にならなかった。


 「驚かないんだね」

 そう言う放生は腰掛けた俺を寂しい笑みを浮かべながら見つめてくる。


 「ええ、まぁ。なんとなくそうじゃないかという気はしていました」

 俺は自分がなんでこのことに驚かないのか、つまりなぜ放生が以前に教育実習をしていたのかもしれないという考えに至ったのかについて簡単に説明した。


 「はー、すごいね、斉藤くん。なるほど、はじめの挨拶か」

 「ええ。さすがに母校だったら、そのことをいの一番に言いそうだなって思って。あとははじめに俺に話しかけた時「昔から先生になりたかった」みたいなこと言ってましたよね。だったらこの時期に教育実習してるのは変だなって思って。この辺の違和感が仮説につながって、ノートの表紙が決め手で確信に変わりました」

 こんな言い方をしているが、これは半分嘘で、順番が逆である。実際は北本と話したことでこの違和感の正体に気づいたのはノートの後。放生が教育実習が初めてじゃないとぼんやり思い始めたきっかけはこの母校の話ではなく例のノートの表紙を見た時だ。


 「あはは、やっぱりあの時見られちゃってたんだ」

 「すみません」

 一応平謝り。

 「いいのいいの!一応ぱっと見ではわからないかなと思ったんだけど鋭い人にはわかっちゃうよね」

 「別に自分が鋭いとは思いませんが、俺は誰にもこのことを言っていませんし、多分他のやつは気づいていないと思いますよ」

 「そっか・・・そっか・・・・・・」


 放生のその声には少し安心感が含まれているように聞こえた。そう、俺は半ば確信して「1回目の教育実習」が放生にとって良い思い出ではない、というにおいを感じ取っていた。


 それもそうだ。教育実習を2回やるなんて聞いたことがない。きっとトラウマに近い何かがある、そう思ったから俺は誰にも、それこそ北本にも白川にも言わないでいた。




 「もう少し聞いていい?」

 さっきよりも声に元気がある。

 「ええなんでも」

 即答する。

 「なんでわたしがここにいるって思ったの?というか、なんで追いかけて来てくれたの?」

 「追いかけた理由は・・・そうですね、正直言うと自分のため、ですかね。あんな姿ですれ違った人を無視して帰ったら俺の寝付きが悪くなる気がしたので」

 「あはははは、なにそれ」

 こっそり放生の顔を窺うと、この2週間で何度か見たような自然な笑みを浮かべていた。


 「この場所がわかったのは本当に偶然で、たまたま前、休み時間にここがお気に入りの場所だって放生さんが言っていたのを思い出して」

 「そっか。斉藤くんにはここのこと話してたっけ」

 「ええ、ここを見ていなかったらもう諦めようと思ってました」

 「そっか、じゃあすごい偶然だ。良かった、わたしのあんな恥ずかしい姿を見られたのが斉藤くんで」

 「ど、どうでしょうか・・・」

 どういう意味が込められているのだろう。意味など込められていないのだろうか。

 とにかく放生の言葉は少し照れくさかった。


 だが間違いなく、放生の声にみるみる血が通い始めている感覚があった。





 ちょっと前までより雨粒が小さくなってきたようで、俺たちを周囲から隔てる雨の音が小さくなってきた。

 「じゃあ斉藤くんには、わたしの前の教育実習がどこだったかもなんとなくわかってるのかな?」

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