201. 驟雨が露すその言葉には、
「風邪、引きますよ」
放生はその声にかなり驚いたようで、ものすごい勢いで振り返った。
「え、さ、斉藤くん!?」
放生は反射的にシャツの袖でさっと顔を拭いてこちらを向きなおる。
「何してるんですか、こんなところで傘も差さないで」
見つけることが出来た安堵と木の下とはいえ傘も差さないでベンチに座り込む放生への呆れの感情が自然と声に乗る。
「あはは、なんか恥ずかしいところ見られちゃったな」
放生は照れ隠しにはにかむ。しかし次に続く言葉がなかったようで、再び放生はうつむいた。
・・・困った。
傍から見ればさながら白馬の王子様のように放生を見つけ出した俺だが、いざ見つけた時になにを言えば良いのかを一切考えていなかった。
ずいぶん前だが初めて白川に会った図書室のあの日の風景を彷彿とさせた。
俺はカウンセラーじゃない。話し上手でもないし聞き上手でもない。放生よりも経験があるわけでもないし頭がいいわけでもない。
かと言って「じゃあそういうことで」と校舎に戻ったら何しにここに来たのかわからない。
やはりここは下手でも何でも自分そのものをそのまま放生にぶつけるしかないか。
「俺は2週間、放生さんと話ができた日々は嫌いじゃなかったですよ」
俺は今、放生にもっとも伝えたい言葉を言うことにした。
その声に、再び背中が動く。だが振り返ることはなかった。
俺は放生と向かい合う位置に移動する。
その俺を放生は下から見上げる。
「・・・」
放生は何も言わず、元気のない様子で俺の顔を見る。その顔は最初の平静を装ったものではなく、今の放生の気持ちをそのまま表したかのような、なにか助けを求めているような、そんな表情に映った。
「すみません、さっきのクラスの女子の会話、俺も聞いちゃいました」
俺という人間が今、どういう状態でどこまで知っているのかを伝えないのはフェアじゃないと思い、素直に伝えた。
「はは、そっか・・・」
放生は悲しく笑う。
「わたし、またなにか間違っちゃったのかな・・・」
まるでこぼれ落ちたかのような言葉。
その震える声を俺は必死に拾い上げる。
何を言うべきなのだろう。何かを言うべきなのだろう。
逡巡する俺を咎めるように、俺たちを覆う木の葉っぱから落ちてきた大きな雫が傘を「ぼん」と鳴らした。




