199. What is he really looking for?
階段に反響する自分の足音を聞きながらクラスの光景を思い返す。
俺は予想以上のショックを受けていた。
放生が悪口を言われていたことに対して、では正直ない。最後に巻き返したとは言え俺も当初は放生に対してどちらかというと悪感情を持っていた。2週間でそれが覆らなかった生徒がいてもなんら不思議ではない。
放生が泣いている姿を見たことに対して、でも正直ない。確かに女子大学生の泣き顔なんてそうそう見られるものではないが、ショックというより驚きだ。
何にショックを受けたかというと悪口を言っている女子のメンツだった。
俺がミシンの使い方を教えたときも、それ以外の雑談でも、普段の様子も至って普通。わかりやすく目立つというわけでは決してないが、それこそどこにでもいるような明るい女子という印象だった。
「・・・そんなもんか」
俺は無意識に独り言を言っていた。
そう、リアルとはこんなものである。教育実習生と2週間でクラス全員と仲良くなれることなんてないし、悪口で盛り上がる人は明らかに悪役ではなく、どこにでもいる普通の人なのだ。
階段を降りきる。自然とひとつ大きなため息が出た。
今は現実のしょっぱさと面白くなさに落胆している場合ではない。とにかく早く放生を見つけなくては。
闇雲に、しらみつぶしに探すというのは俺の性分じゃない。階段の一番下の段に腰を下ろし考える。
まずは自分ならどうするかで考える。こんな状況におかれたら出来るだけ人がいないところに行くだろう。自然、空き教室が候補に挙がる。しかし今回は現実に助けられる。漫画のように至る所にある空き教室が開いていて誰でも入れるということは無い。なんたら準備室みたいなものは除外していいだろう。
開いている教室はと考えると1階には3年の教室が並んでいる。しかしこちらは人がいない場所という条件を満たさない。いや、もしかしたらみんな出払っていてそこに放生が・・・という可能性もなくはないか。
一応行くだけ行ってみよう。
・・・。
やはり放生の姿はなかった。ついでに期待薄だった自習室にも一応行ったがそこにもいなかった。
再びさっきの階段に戻る。
部活に精を出す生徒の声と窓に当たる雨の音が同時に耳に入る。
・・・・・・。
俺は半分あきらめの境地にいた。もういっそそのまま部室に戻ろうかとさえ思った。なぜなら教室を回っている途中「女子トイレにいるのでは」という可能性を思いついてしまったからだ。もしそうならこっちは手も足も出ない。しかもなんか涙目の女子が隠れる場所としてはとてもリアリティのあるロケーションに俺には思えた。
そもそも、そもそもだ。第一俺が泣かせたわけでもねぇんだ。必死になることはない。もう良いだろう。心の中の誰かが何度も訴える。
そう思い始めると心が一気にそちらに傾く。自然と足は部室へ向かう。一歩一歩と階段を登り始める。
中間地点の踊り場まですぐに来た。窓に打ち付ける雨の音が耳障りだ。
俺には関係ない。関係ないと思えば思うほどなぜか放生との会話シーンが脳内で再生される。
彼女の懸命さが思い起こされる。
あと数段で2階。その瞬間、体に電流が走ったような感覚に陥った。
もしかしたら、彼処には。いや、しかし・・・。
踊り場の窓の外を見る。嵐というほどではないが、外はしっかり秋らしい寒い雨が降っている。
だが可能性はある。放生を忘れるのはそこを確認してからでも良いんじゃないかと思えるほどには。
俺は再び階段を降り、一目散に下駄箱へと向かった。




