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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第10章 終わりがあるから始められる
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198. ごくありふれたどこにでもある絶望




 俺はちょうど放生がしていたようにドアに寄りかかり、教室の中の様子を伺った。

 かすかに声が聞こえる。

 教室には数人の女子が喋っているようだ。ちょうど先程ここに来る間に見た光景が広がっているのだろう。


 ドアに耳をつけて聞こえる声に澄ます。



 「正直さぁ・・・・・・」

 嫌なニュアンスを含んだような低い声が聞こえる。

 「やっと居なくなってくれて良かったよね」

 「ほんとほんと」


 「もうあの気持ち悪いノートも男子に媚びるキモい姿も見ないで済むし」

 「あれマジで男子に媚びてたよね。大学生のくせして恥ずかしくないのかね」



 俺は音が出ないように静かにドアから耳を離した。さっきどういうことが起こったか、放生がどんなことを思ったか、もう充分ににわかったから。そしてこれ以上この会話を聞く気にならなかったからだ。


 一呼吸置いて俺は意図的に勢いよく一気にドアを開けた。


 「うわぁっ!」

 女子の驚く声が聞こえた。一瞬彼女たちの顔を確認する。確かこいつらは文化祭のメイド服製作の時に何度か会話した。


 なんだ斉藤か、という声を無視して俺は自分の机に向かう。


 一応、というか事実そうなのだが、忘れ物を取りに来たという名目をわからせるために、机の中から漫画を取り出す。

 そして女子を一瞥して教室を去った。もうここには用がない。


 俺は漫画を左脇の下にはさみ、ポケットからスマホを取り出す。イラつく気持ちを落ち着かせるために時間を確認。急いで出てきたこともあり、放生とすれ違ってから1分しか経っていない。


 原因もわかったことだし部室に帰ろう、とはさすがにならなかった。ここで無視して帰っては寝覚めが悪い。

 次に打つ手はなんだ。白川か北本に相談するか?いやいや、こんなこと説明して何を協力してもらうんだ。

 じゃあ相談相手は担任か?だが教育実習最終日にこんなことが起こったと担任に報告するのは放生のためになっているだろうか。



 一度首を振って脳内をリセットする。誰かに頼るのは自分の万策が尽きてからだ。今の問題の核は放生がどこにいるかわからないこと、どういう状態かわからないことだ。現状の事態は放生を見つけ出せれば解消する可能性がある。


 じゃあその放生は今どこにいるんだ?


 今一度校舎全体のイメージを頭に思い浮かべる。他の高校を知らないから比べようがないが、この高校は広い。少なくとも人ひとりとかくれんぼするのには十分すぎる広さがある。


 いや、と後ろを振り返る。よく考えたら放生はこの階段を降りたんだ。放生の潜伏場所はこの階以下、つまり1階しかありえない。

 これで同じ階にある職員室に帰ったというほとんどなかった可能性は0になった。放生のいる場所は1階及びこの学校の敷地内に限られたわけだ。


 ただ突っ立って考えていても仕方がない。とりあえず階段で下の階に行くことにしよう。




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