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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第10章 終わりがあるから始められる
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197. 沈黙の扉




 程なくして佐々木と順がやって来る。


 インスタントコーヒーとクッキーをいただきながら俺と佐々木と順は談笑していた。

 すっかり寒くなってきたこと、もう来週から11月で残すところ今年もあと2ヶ月という事実にみんなで震えていたところに掃除当番の白川が遅れて登場した。


 「おつかれ~」という佐々木の声に微笑みながら返答して白川が席に着く。


 いつもどおりのメンバーが揃う。こうなると俺は大体女子の会話を横目?横耳?に聞きながらスマホを見たり本を読んだりしてまったり過ごす。



 今日は放生の授業を聞いたせいで授業中にあまり漫画を読み進められなかったしその続きを読もう。

 そう思い立った俺はカバンに手を突っ込んでガサゴソ中身を漁る。


 が、お目当ての単行本が見当たらない。


 カバンを膝の上に置いて本格的に探すかと持ち上げた瞬間に「あ」と気づく。授業が始まってすぐ机の中に押し込んでから置きっぱなしだ。


 白川がコーヒーを飲み始めたタイミングで俺は忘れ物したから取りに行くと言い残し図書室を後にした。




 別に急いでいるわけではないが少々早足めに自分のクラスを目指す。放課後ということもあり廊下や他の教室に人は疎らだ。


 だが誰もいないかというとそういうわけでもないようだ。さながらコンビニ前の灰皿付近のように、特にやることもなさそうな生徒が集まって楽しそうに会話している光景が教室のいつくかで見られた。お前ら部活はどうした部活は。


 ・・・と思ったが俺が図書室でやってることとほとんど、というか全く同じだった。


 まぁそうだよな、会話こそ人間しかできない高度な情報のやりとり。コミュニケーションこそ生涯で普遍的に役に立つ能力だ。きっと三角関数程度には役に立つ。


 そういえばこの時間帯の学校の様子というのは意外と知らない。いつも図書室という校舎の端ですみっコぐらしをしているせいもあり、放課後の学校を歩くことがほとんどなかった。

 クラスで話す生徒の声、吹奏楽部の音、体育館からの声、いつからか降り始めた雨が窓に当たる音。独特の騒がしさと雰囲気を感じる。なんだか学校全体がいつもよりも大きな空間に感じるのはなぜだろう。無限に奥行きがあるような、どこまでも細分化されているような、校舎に対してなぜか巨大な化け物に対峙したようなちょっとした畏怖に近い感情を持った。


 そうは言ってもクラスまでの道は無限ではない。間もなく目的地の3組が見えてきて一気に現実に引き戻された。



 「ん?」


 思わず小さく声が出る。なぜか教室後ろの入口に人影が見えたからだ。

 その人影の正体は目を凝らすことをせずとも判明した。なぜなら格好がこの高校の生徒のそれとは異なったからだ。


 俺は声をかけるでも手を振るでも忍び寄るでもなく自然に近づく。別に悪いことをしているわけではない。相手が気づいたら挨拶をすればいいだけだ。もし十分近づいても相手が気が付かなければ俺から声をかけてもいい。


 しかし現実はどちらにもならなかった。

 ちょうど俺がクラスに着く手前にある階段の前に差し掛かったところで放生は突然こちらに走ってきた。


 俺は慌てて横によける。


 そして彼女は俺とすれ違って階段を駆け下りていった。

 あまりに予想外の出来事に刹那その場に立ち尽くした。


 どうするのがいい。追いかけるべきなのか、原因を探るべきか、はたまた見なかったことにして漫画を取り部室に帰るか。




 2秒ほどだろうか、俺は考えた末すぐに物音を立てないようにしてクラス後方のドアに駆け寄った。


 まずは原因を探ろう。なぜ放生は走り去っていったのか。そしてなぜその目に涙を溜めていたのか。

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