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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第10章 終わりがあるから始められる
196/241

192. スーツ姿はしゃがんだとき最も真価が発揮されると言われている




 「こらこら、学校でマンガ読んじゃダメだぞ~」

 なんてことない休み時間。いつも通りマンガを読んでいると斜め後ろの頭上から何やら声をかけられる。

 漫画本を閉じながら声のする方に振り返る。そこにはいつものクリップボードを持った放生がいた。

 至近距離で見てはじめて気がついたが、このクリップボード、紙を挟んでいるわけではなくノートの台として使っているようだ。だらんとボードの端から垂れ下がっているノートの表紙には『教育実習2』と大きく丸に囲まれた2の文字が書かれている。


 ・・・。

 俺はそのノートを凝視した。

 「といっても、斉藤くんはいつもマンガ読んでるみたいだけど」

 他の生徒のことが書いてあるノートの中身を見られたくなかったのだろうか、放生は笑いながら俺の視線から隠すように手に持っているクリップボードを自分の背中の方に持っていった。



 放生が教育実習に来てもうすぐ1週間。どうやら放生の休み時間コミュニケーション行脚は俺がいる窓際まで到達したようだ。

 俺はというとすっかり放生の存在を気にしなくなっていた。だから声をかけられたとき、声の主がすぐに放生だと正直わからなかった。


 「今どんなマンガが流行ってるの?」

 俺が話を切り出さないと察した放生はごく自然に手近な雑談の話題を持ってきた。

 「どうでしょう。あまりマンガに詳しくないので」

 自分でもこの返答はどうかと思うが、これは本心なのだ。実際俺はいわゆる一般的に流行っている種類のものとは異なる漫画ばかりを読んでいる自覚がある。だから一般ピープルに流行っている漫画はあまり詳しくない。逆に考えてほしい。ここで誰も知らないような萌え4コマの話をして誰か幸せになるだろうか。


 「そ、そうなんだ・・・」

 放生は(漫画読んでるから話題振ったのに・・・)と内心は思っていそうな困った表情をする。少し申し訳ない気持ちになった。ごめんね。


 「斉藤くんって少し変わった部活に入っているって聞いたけど、ほんと?」

 だが俺の気の利かない返答に折れることなく、放生は俺とのコミュニケーションを図るためどこから仕入れてきたのかわからない話題をぶつけてきた。


 「ええまぁ」

 いつの間にか俺の席の横の通路にしゃがんでいる放生に俺は微妙な返事をする。自分で「はい、変わった部活に入っています!」というのも恥ずかしいが、変わっていないというのはさすがに嘘だと思ったのでこんな微妙な返答になってしまった。


 「SSS部?だっけ?どんなことしてるの?」

 ようやくこれだという話題を見つけた感じで放生はぐいぐい聞いてくる。

 「どんなこと・・・」

 そう言われてもなぁ。俺は困る。だって特に何もやっていないからだ。あの部活は単にはみ出しものの寄り合いなのだから。

 やっていることと言えば喋りながらお菓子を食べているだけだが、そんなことバカ正直に言えるわけもない。


 「まぁ、何もしてないですね」

 放生は「え?」という顔をしている。だろうな。さっきからの会話も合わせるともう俺は早く話を切り上げようとしているようにしか思えないだろう。

 「俺以外の人は勉強したり、本を読んだり、編み物したり、色々してますけどね」

 さすがにこのままでは申し訳ないので話を続ける。

 「それは同じ部活の人なの?」

 「ええ」

 「なにかみんなで一緒にやったりしないの?」

 「たまにボードゲームやったりしますけど、ほとんど単独行動ですね」

 こんなこと教師(仮)に言ってもいいのかと一瞬思ったが、俺の漫画をチクってないし大丈夫だろうと判断した。

 「白川さんも同じ部活なのよね?」

 そうですよ、と返事する。こいつどこまで俺たちの素性を調べてるんだ?まぁ白川は直接聞いた可能性もあるか。ちゃんと自分で調べていたら北本のことも触れそうだし。


 次は俺のターンと言わんばかりに俺は放生に質問をすることにした。

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