17. そして非日常は日常に変わり始める。
図書室に場所を変えた。女性陣はみんな不機嫌そうな顔をしている。
神よ、俺が何をしたって言うんだ。
「それで、なんで昼休みここに来なかったのー?」
やっぱりその話続ける感じですか。
これはどう答えるのが正解なんだ?
「今日は教室で過ごしたい気分だった。」
「えーなんでー。今まで毎日欠かさずここに来てたじゃん!」
そこを突かれるのは痛い。だが想定内だ。
「別にこれまでそういう気分にならなかったからと言って、今日そういう気持ちにならない保証にはならない。」
「それで教室で過ごした昼休みは楽しかった?」
「全く」
げ、思わず本音が。
白川と北本が白い目で見ている。お前らもぼうっと見てないで助け舟の一つでも出してくれよ。
「なーんだ。でも南ちゃんは優しいから今日のことは許してあげる。そ・の・か・わ・り、明日からは毎日図書室に来てね。」
上目遣いで言ってくる。それやめろ。無条件に承服しそうになるから。
しかしなあ。
「う、うんと言いたいが・・・」
白川の方を見る。
「良いですよ。そんなに佐々木さんに会いたいのなら。そもそも私には関係のないことですし。」
「別に俺はこいつに会うために図書室に行っていたわけじゃないって。」
「どうだか。」
白川はなにかに怒っている。
「ねーえー、毎日図書室に来てくれるよね?」
「うーーーーん…」
「もし来なかったら3組に行くからね!」
「わかった。毎日欠かさず行こう。」
「やったーー」
「白川も来r」
「結構です。」
「そ、そうか。」
「いいじゃん。二人きりで。」
震えが止まらない。
元々俺はくつろぐために図書室に来ていた。それなのに佐々木がいたらくつろげるはずがない。こんなの本末転倒以外の何物でもない。
無意識にため息が漏れる。最近何もない日々への執着が薄れて来たと思った矢先にこれである。佐々木の出現でまたしても俺の生活は混沌としてきた。
何も佐々木は俺を取って食おうとしているわけではない。数日もすれば俺がつまらない人間とわかって飽きてくれるだろう。それまでの辛抱だ。
「あの~、私も昼休み図書室に行ってもいいですか?」
「「え?」」
「私もこのスペース気に入ったのでここで勉強しようかなーと。」
思わぬところから思わぬ声が聞こえてきた。
「是非きて「だめええええ」
「なんで?なんでせっかくまさくんと二人きりになれそうだったのにいい!」
北本の眉が動く。
「大体ここは誰でも使っていい部屋ですし。ああでも、もし私がいたら困るようなことをするのならば来ませんけど。」
「来てくれ。是非来てくれ。なんなら俺に勉強を教えてくれ。」
「何言ってるんですか。なんで私があなたに教えないといけないんですか?」
「…いや、言ってみただけだ。」
北本は氷のような眼差しで答える。
「ぶーぶー、まさくんはわたしと二人で過ごすのが嫌なの?」
「それは、女子と二人きりなんて落ち着かないし。」
「も、もしや、わたし意識されてる?」
「別にお前じゃなくても同じだ。俺は一人でくつろぎたいんだ。」
「えーつまんないーー。そんな高校生活送ってたらいつか後悔するよ。」
「お前と二人きりよりはマシだ。」
「ひ、ひどい・・・」
やべ、言い過ぎたかも。あーもうめんどくせー。
「あーあれだ、お前はかわいいから二人きりなんかになったらドキドキしてしまうんだよ。言い方が良くなかった。俺が悪い。」
女子の機嫌が悪くなったら謝って褒めればよいと何かのアニメで言ってた。
「え、も、もうしょうがないな~まさくんは~」
ふう、難を逃れた。サンキューなにかのアニメ。
「私と二人で部活をやっていた時は随分くつろいでおられたようでしたけど。」
げっ。一難去ってまた一難、何やら白川がすねている。
「違う。お前は特別なんだ。気の置けない関係というやつだ。多分。」
「わたしは~」
「お前はまだ出会って数日だろ。」
「あの、私は。別に興味ありませんが。」
「興味ないなら聞くな。」
ふんっと言って勉強に戻った。白川はなにやら機嫌が直ったようでよかった。佐々木は知らん。
「じゃあそろそろ部活始めましょうか。」
ご機嫌の部長が号令をかけた。
「わたくし佐々木南、麻雀を覚えてまいりました!」
「まじで。やるじゃん。」
「ふふーん。すごいでしょ。もっと褒めて。」
頭を差し出してくる。
「おーえらいえらい。」
頭を撫でる。4麻ができるようになったのは嬉しい。
「だけどなぁ。このメンツでやると麻雀嫌いになっちゃうかもな。」
「え、なんで。あ、もしかして、脱衣麻雀なの…?」
こいつほんとに麻雀覚えて2日目か?
「違うわ。この中に一人とんでもない実力の雀士がいるんだ。」
北本もやればわかると佐々木に言っている。
いよいよ4人揃って初の対局開始である。
・・・。
終わってみればいつもの結果である。初心者のせいか白川の標的にされた佐々木が飛んであっという間に終わった。
「え、なにこれ。つまんなーい。」
やっぱそう感じるよね。
「かおりんって何者なの?」
「博打の女王。」
「違います!」
「私もこの強さは相当だと思います。」
「もう北本さんまで。」
そんなことを言っているが白川は満更でもなさそうだ。
「くっそー、でも麻雀はまだ初心者だし仕方ない。次はこれで勝負だ!」
闘争心に燃える佐々木が取り出したのはオセロだった。
「オセロはちょーーっと自信あるんだよね。」
やる気に満ち溢れた白川を見ている。
「白川はなにかする予定あったか?このままだと今日はオセロ大会になりそうだが。」
しかし白川のことだ、なにか用意しているかもしれない。
「いえ、私もなにをしようか決めあぐねていたので。」
そういう彼女の瞳にも闘争心が燃えていた。
「ならちょうどいっか。北本はどうする?」
「やりますよ。もちろん。」
彼女もまた燃えていた。どうもこの部活の女性陣は勝負事に熱くなるタイプらしい。
「そうか。じゃあまたトーナメント形式か。」
早速北本が表を作る。くじは前回の使い回しだ。
抽選の結果。俺vs白川、北本vs佐々木となった。
「お前オセロ強い?いや、どうせ強いよな。」
「普通だと思いますけど。」
「信用できん。」
「ひどいです。そんなひどいことを言う人には負けてもらいます。」
こわっ。勝てる気がしない。
・・・。
「斉藤くんってボードゲーム苦手なんですか?」
「うるせえ。」
「ふふ。ごめんなさい。」
盤面は白一色だった。俺の黒は角を一つも取れなかった。
「まさくんよわーい。」
笑いたければ笑ってくれ。
「次はわたしたちだねー」
「負けませんよ。」
「わたしだって。」
勝負に燃える二人の戦闘が始まった。
・・・。
「があああああ!」
北本が奇声を上げていた。
盤面には先程見たような一面の銀世界。佐々木の圧勝である。
「わたしに勝とうなんて10年早いってもんよ。はっはっは。」
白川は何も言わず盤面を眺めていた。
「さーて決勝戦も軽く勝って優勝しますか~」
佐々木は余裕綽々だ。
白川は静かに席に座る。
決勝戦が始まった。
・・・。
・・。
・。
すごい…。素人目から見ても面白い勝負だとわかる。角はお互いが2つずつ取っており、盤面もちょうど半分に色が別れている。残り5つ、どう決着するか全くわからない。
「かおりんやるねぇ・・・!」
「佐々木さんこそ・・・!」
なんだこの熱気は。どんだけ本気なんだ。
「ねえ、かおりんはまさくんのことどう思ってるの?」
「ふぇ?」「は?」
藪から棒に何を言い出すんだ。
さすがの白川も戸惑っている。
「隙ありっ!」
「あっ。」
白川が混乱している隙に佐々木が妙手を放つ。
この一手で佐々木が勝利した。
「ずるいです佐々木さん!」
「えーなにが~??」
「いえ、もういいです・・・」
「ねえねえ、わたし勝ったよ!」
「おう、すごいな。」
「ぶー、もっと褒めてよ。」
「えー。すごいすごい。」
仕方なく頭を撫でる。なんでこいつこんなに俺に懐いてるんだ?
恨めしそうに白川が見ている。
「さ、さあもう1戦やるか。」
「次は将棋で。」
恐ろしい気迫の白川に反論するものはいなかった。
・・・。
結果白川が無双して今日の部活動は終わった。
「明日から何をしたいですか?」
「そうだなあ。」
今日の帰り道のフォーメーションは俺と白川が後ろだ。部員が4人になったことで自然と2対2に分かれて歩くフォーメーションになる。
「ボードゲームから離れてみるか。最近食傷気味だしな。」
「そうですねぇ。私達だけではアイデアが偏りますし二人にも聞いてみましょう。」
そう言って白川は前方のグループに入る。
しばらくして戻ってきた。
「北本さんは勉強、佐々木さんはドッジボールとおっしゃってました。」
「運動はなあ。場所もないし時間もそんなにないしなあ。勉強ってのは…うーむ…」
「勉強と言っても学校の勉強じゃなくてもいいと思います。」
「そりゃわかるけど。例えば何か思いつくか?」
「え?うーん・・・・・・。書道とか華道とか茶道とかどうでしょう。」
「道具がなあ。」
「そうですよね。ああ!では俳句や川柳や短歌はどうでしょう。紙とペンがあればできますし、趣味としてもよさそうです。それに4人でやれば楽しそう。」
「うーん。確かに悪くないか。」
「では決まりですね。」
ちょうど俺の家に着いた。
「じゃあな。また明日。」
「さようなら。」「はい。」「ばいばーい。明日は図書室着てね。」
ぐはあ、すっかり忘れていた。
ベッドに横になる。
最近1日があっという間に過ぎる。
今までの半分くらいの体感時間である。
明日から昼休みどうしよう。全く、俺の安寧秩序が佐々木という存在によって次々と壊されていく。
・・・。
でもまあいいか。今日もなんだかんだ言って楽しかったし。
今までは他人の存在を忌避し続けてきた。
しかし最近は押しの強い方々のせいでそういう意識が薄れてきたように感じる。
他者という集合に『居なくてもいいけど、居てもいい存在』という部分集合ができた。
人はこれを友達というのだろうか。
・・・違うか。違うな。
~白川と北本のチャット~
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白川「では、何気ない感じで確認よろしくおねがいします。」
北本「わかりました。」
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