184. お久しぶりの new heroine
その女性が現れたのはあまりにも突然で、静かで、そしてあまりにも自然だったために最初俺は彼女の存在を知覚することすら出来なかった。
2限と3限の間の短い休み時間、俺はいつもと変わらず意識の半分を周りの喧騒に取られながら机の中に忍ばせていた4コマ萌え漫画(大判)を読んでいた。一般的な漫画より一回り大きいので隠すことは最初から諦め、俺は漫画に登場する魔法少女とポンコツ悪魔にニチャついていた時、俺の意識の半分はいつもは俺には全くわからない単語が飛び交っている隣人の田辺、通称なべちゃんとその仲間たちが気になる会話をしていることを捉えた。
「さっきの授業さぁ、後ろに知らない人いたの気づいた?」
さっきの授業というのは2限の古文のことだ。
「なんか途中から入ってきたよねw」
「まじ?さっきって2限?」
「そう」
「わたしも気づいた」
「え、まじか。誰?」
「わかんない。ロッカーの前に立ってた」
ロッカーというのは掃除用具が入ったロッカーのことだろう。
「男?女?」
「女」
「年は?」
「うちらより少し上くらいっぽくなかった?」
「うん。多分大学生。もしかしたら社会人かも」
「というか気が付かなかったのわたしだけなの?ウケる」
なべちゃんが何にウケたのかはよくわからなかったが、どうやらさっきの授業中にうちのクラスには未知の侵入者がいたようだ。
「てか途中でドア開く音したじゃん」
「なべちゃん鈍くね?」
取り巻きがけたけた笑う。多分内心は釈然としないであろうなべちゃんだが、そんなことはおくびにも出さず一緒に笑っている。きっとこういうところが周りに好かれる理由なのだろう。
俺は心の中で「大丈夫だなべちゃん、俺も全く気が付かなかった」と言い残し、意識を漫画に戻した。
次の授業の始まりを知らせるチャイムが鳴る。漫画を一応しまって机上に教科書とノートを準備する。国語に比べれば物理はまだ面白みを感じられる。既に使用されていない昔の言葉をなぜか勉強させられ、さらに奇行しがちな登場人物の考えていることを想像させられるくらいなら、現実に起こる事象を記述した運動方程式を解くほうが幾分ましだ。
「・・・」
一応その日の以降の授業でも時折教室の後ろを確認したが、その女子大生と思われる人物が現れることは無かった。




