183. きつね色の感謝状
さっきクッキーの生地をしまいに行った時に思いついたことを白川に伝えた。
「良いですね!そうしましょう!」
白川は手を叩いて賛同してくれた。
「ちょっと待っててください」
そう決まるやいなや、白川は先生の方へ小走りで向かい、持ち帰り用のビニール袋をもらって帰ってきた。判断が速い。
白川は俺に袋を渡すことはせず、代わりにクッキーを詰めてくれている。
「っておい、なんでそんなに袋に入れてるんだよ」
だが白川は当然のように出来上がったクッキーを4分の1以上袋に入れている。
「私もそうしようと思いました」
「え?」
どゆこと?
「私も斉藤くんと同じことをすることにしました!せっかくなら多いほうがいいじゃないですか」
白川はいつもの屈託のない笑顔で自分のクッキーも袋に入れて始めた。
「まったくお前ってやつは・・・」
そうして白川は自分の分も入れた袋をリボンで綴じた。
「はいっ」
二人分のクッキーが入った袋を俺に渡してくる。
「良いよ、お前から渡してくれ」
半分は白川のぶんだ。なら俺からよりも白川から、の方が上手くやってくれそうだ。
「ダメですよ!これは斉藤くんが伝えようとしていた気持ちじゃないですか!」
珍しく白川の語気が強めだ。
「そ、そうかな・・・」
「そうです!!」
そこまで言うなら・・・と俺は袋を受け取った。
「えーふたりとも食べないの?」
「あとで食べようと思ってな」
「私はお腹いっぱいで」
俺たちはクッキー2人分を中谷と安西に届けた。二人分のクッキーが同じ袋に入っているのがバレたらつっこまれてめんどくさそうなので袋はすでに忍ばせておいた。
「どうだ?一応白川が見てくれていたから大丈夫だと思うけど」
真っ先にクッキーを毒味してくれた中谷に感想を聞いてみた。てか一応味見の分として1枚くらい袋に入れず残しておけばよかった。
「んまい」
大丈夫なようだ。なら良かった。
美味しそうにクッキーを食べる中谷の顔を眺める。
自分が作ったものを他の人が美味しそうに食べているのを見るのは、なかなか悪くない。
安西の方も見る。
「うん、おいしい」
安西のお口にもあったようだ。
「斉藤くんも1枚食べれば?」
「もう自分の分袋に入れたからな」
正直ちょっと食べたかったが、袋に入れてしまった以上仕方ない。
「1枚わたしの分あげるよ、ほら」
安西がクッキーをつまんで俺の方に差し出してきた。
「え、いいの?」
「いいよ~、ほら、あ~ん」
「じゃ遠慮なく」
あーん。
・・・。
お、ちゃんと美味い。さすが白川が監修してくれただけあるわ。
そんなことを思いながら白川のほうをちらりと見た。
「・・・・・・。」
白川はいつものように優しい微笑みをたたえている。だが後ろに背負っているオーラから白川の機嫌がよろしくないことが察知できた。
「あ、いや、えーと・・・俺、皿洗ってくるわ」
席を立ち、逃げるように俺は流しの方に向かった。
皿を洗いながら、そうだ、このままではあいつの居心地が悪くなるかもしれないと思い至った。
放課後俺たちが何をしようとしているか伝えておいたほうがいいよな。
皿洗いを一度中断して俺は北本に話しに言った。
北本のいる班の机の上の様子を見ると、まだデザートタイムには到達していなかった。
「北本」
背後から食事中の北本に声をかける。
「わぁ」
素っ頓狂な声を出す北本。
「なんですか!もう」
びっくりしたのか、北本は少しオコ。
「ごめんごめん、実はさ・・・」
俺は手短に俺と白川の計画を伝えた。
「いいですね!」
話を聞いた北本はすぐに機嫌を戻してくれた。
「私もその計画に乗らせてください」
結局クッキーは全部で3人分となった。
放課後、いつもの通り俺たちは図書室に集まる。
「おつかれ~」
佐々木が入ってきた。
「今日はねぇ・・・じゃーん!さつまいものタルトだよ~」
相変わらずすごいお菓子を持ってきてくれる。
気付けば当たり前になっていたこの光景。
だが、自分で作ってみてわかった。
どれだけ大変か。どれだけありがたいことか。
俺は佐々木と違って簡単なものしか作れないし、なんならひとりで作ることも出来ない。
だけど"これ"は、気持ちばかりのお返しということで。
俺はかばんに手を伸ばす。
「佐々木。実は今日は俺たちもお菓子があるんだ」




