182. ま、ママぁ・・・・・・
「ではいただきましょう!」
いつの間にやらエプロンを脱いでいた白川が号令をかける。
俺たちのグループのテーブルの上には出来たての料理が並び、その料理から湯気と香りが立ち込めていた。
「お~美味そう」
早速右手に箸を持ちながら料理を一通り眺める。
出来上がった班から食べていいルールのようで、俺はたいして何もやっていないのに少し優越感を感じながら他の班より一足早く食べ始めた。
「うん!美味い!」
こう言っては悪いがなんの変哲もないありふれた野菜炒めなのに、なんだか妙に美味しく感じる。
それは学校の調理室で食べるという特別感がそうさせるのか、それとも同級生が作ってくれたからそう感じられるのか。
「おーハンバーグも美味い!」
メインディッシュのハンバーグもとても美味い。きっとしょーもない材料のはずなのに、やっぱりその辺のレストランで食べるハンバーグより数段美味しく感じる。
「美味い、美味いわ。ありがとう」
無能な俺に代わって料理を作ってくれた同じ班の女子3人を順々に見て感謝の意を伝える。
「おおげさ。普通だって」
中谷はもうやめてよ、と言わんばかりに謙遜する。
「そんなに喜んでくれたら作ったかいがあるね」
そう笑いながら言ったのは安西。
「うふふ、おかわりもありますよ」
そしてとてもうれしそうなのは白川。こういう時、驕りもせず、かといって過度に謙遜することもしないで素直に気持ちを受け止めてくれるところがいかにも白川らしい。
「おう、おかわりちょうだい」
白川に茶碗を渡す。茶碗を受け取ってくれた白川を見ながらこれが母性というやつなのか、なんて気持ち悪いことを考えてしまった。
「はい、どうぞ」
山盛りにご飯がよそってある茶碗を受け取った俺はその後も3人の作ってくれたご飯を某炎柱のように美味い美味いと言いながらもりもり食べて、気付けば一瞬で平らげていた。
「そうだ白川。クッキーはいいんだよな」
すごい勢いで食べ終わったところで今日の調理実習唯一の我が子であるところのクッキーの存在を思い出す。
「大丈夫ですよ、そこのタイマーが測って・・・」
ピピピピ。白川の言葉を遮るように調理台の上に置いてあったタイマーの音が聞こえてきた。
「うふっ、ちょうど出来ましたね」
「おし、行こう」
俺と白川は食事をしていた机を離れてオーブンの方へと向かった。
「おお~」
白川が慣れた手付きでオーブンを開けるといい匂いと同時に焼き上がったクッキーが出てきた。
「どう?良さそう?」
出てきたクッキーは、素人見にはよく出来ているように見えた。
「ええ、完璧です」
ミトンをした白川が取り出してくれたクッキーを机上で改めて見てみる。
まぁ白川監修だから失敗するってことは無かっただろうけど、いざ出来上がったものを見てみるとそれなりに嬉しいもんだ。
「ではあちらのお二人へ持っていきましょうか」
「あ、そうだ」
白川がクッキーを4人分平皿に分けようとするのを声で止める。
「これ、今食べないで持って帰ってもいいんだよな?」
確か俺が漫画を読んでいる時に家庭科の先生が「お腹いっぱいになったときはクッキーは持ち帰りでもいい。そのための袋はある」という旨の話をしていたと思う。
「先生はそうおっしゃってましたね。・・・今食べないんですか?」
もしかしてお腹いっぱいになっちゃったんですか?と聞きたそうな目で見てくる白川。
「実は・・・」
俺は白川にさっき考えついたことを耳元で伝えた。




