180. 男子高校生は基本無力です
おばちゃんの家庭科先生の手により黒板に今日我々が作らないといけない献立が列挙される。
授業で作る献立ということもあり、ハンバーグ・野菜炒め・味噌汁プラスデザートという(おそらく調理実習としては)オーソドックスなものだった。
俺が出来ることと言えば、あっという間にすぐに沸くアレでお湯を沸かすことと、炊飯器でご飯を炊くことくらいだ。しかしご飯については設備の関係上でかい炊飯器で全員分を一気に作るらしい。そして味噌汁用の湯沸かしはコンロで行うらしい。つまりどういうことかと言うと、俺は何も出来ない置物になったわけだ。
白川と安西・中谷はせっせと食材を運び各々野菜を洗ったり刻んだり着々と準備をしている。
座って休むのは忍びないのでコンロの前で仕事をしています感を出しつつさながら試験監督の振る舞いをしながらぼーっと女子の手さばきを眺めていた。
どうやら同じグループの女子3人は全員それなりに料理ができるようだ。てか中谷料理できるんだ。失礼ながらなんとなくできなそうなイメージを持っていた。
いつもと違いふたつ結びのおさげの髪を揺らす白川は慣れた手付きで野菜を切っている。文化祭の時に見たせいもあるのか、白川のエプロン姿はとても様になっていた。
いたる所から包丁とまな板が当たる小気味よい音が聞こえてくる。この音を聞いているだけでなんだかお腹が空いてくる。だがそれと同時に何もしていないことに申し訳無さを感じてきた。
他の男子はどうかなと辺りを見渡す。が、どこも同じようだ。
そう言えば、と北本を探す。
少し調理台の離れたグループではあったが何かを炒めている様子が見えた。
入学してすぐの合宿では俺と同様料理ができなかったのに随分明暗がわかれたものだ。俺はまぁ何もしてないから当然か。
「なに、あんた炒めるのやってくれるの?」
ぼーっと突っ立っていると中谷に肩を叩かれる。しまった、コンロの前なんかに立ってるんじゃなかった。だが戦力外から戦力に変わるにはちょうどいいタイミングだと思い協力の意思を伝える。
「ああ、いいよ。で、どうやって火付けるの?」
「・・・他のところ行ってて」
中谷は呆れている。そりゃそうだよな、自分が出来るなら教えるより自分がやったほうが楽だし。
俺はぬるっとコンロ前から立ち去りアイランドキッチンさながらの調理台を半周歩いた。
野菜炒めとハンバーグの下準備を安西・中谷にバトンタッチし、デザートのクッキーを準備をしようとしている白川に近づく。
「あのー・・・、えーっと、なんかやることある?」
おそらく何もしなくても怒られやしないと思うが、さすがに何もせず作ってもらった飯を食っても申し訳無さが勝って美味いものも美味く感じなくなりかねない。
「いいですよ、ゆっくりしていただいていて」
白川はにこっと笑いながらそう言う。多分この言葉は「邪魔だからじっとしてろ」をオブラート1000枚くらい包んだものなのだろうということは何となくわかった。だけどああそうですかと離れてはさっきに逆戻りだ。
「でも、ただずっと突っ立ってるのもなんだか悪い気がして・・・それにその、これ、一応授業だしな・・・」
「うーん、たしかに一応これ授業ですもんね」
白川は顎に手を当てる。
「そうそう」
本当は白川が全部やったほうが効率的だということはわかっている。俺の声掛けは邪魔にしかなってないこともわかっている。
でもこのまま何もせず出てきた飯をパクパク食うのはいくらなんでも忍びない。言ってしまえばこの協力も俺の自己満足に過ぎないのだ。
「それ、今からかきまぜるの?」
俺は台の上においてある卵とよくわからない粉などなどを指差す。
「そうですよ。これがクッキーのもとになるものです」
小学生に教えるが如く優しく教えてくれる。
「俺やるよ、それ。ただ混ぜるだけなら俺でもできるだろ」
湯婆婆に働かせてくださいとお願いしていた千尋もきっとこんな気持ちだったのだろう。
「ふふっ、じゃあお願いします」
白川の慈悲により俺に仕事が与えられた。




