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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第10章 終わりがあるから始められる
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177. ブレザーを着ても尚感じることの出来る緩やかだが確かに存在する凹凸に無限の可能性と未来への希望を感じながら──



 体育祭が終わってまたしても代わり映えしない学校生活が始まった。


 "代わり映えしない"なんて言ったところだが実際には変わったことがふたつある。


 ひとつはみんなの服だ。制服のマジョリティが夏服から冬服になった。暦ではたしかに夏か冬かと言われれば冬に近い時期と言える。

 ・・・そうは言っても薄着の女子が減ったことは正直悲しい。これだけで学校にモチベが2割、いや3割減すると言っても過言ではない。冬は脱がす枚数が増えるからいいなどという言説は全くの詭弁である。諸兄は騙されぬように。


 もうひとつの変化は学校全体の雰囲気だ。文化祭や体育祭が続いていたときの浮かれた空気はどこかに行き、学校全体の雰囲気は落ち着きを取り戻しつつあった。

 暑いからどちらかというと寒いと感じることが多くなったことも相まってか、授業を受ける他のクラスメートの顔にも覇気がない。

 かくいう俺も授業を話半分に聞きながら、教科書を盾にして漫画を隠し読むというクラスの空気を醸成する行動をしている。


 確かにここからはもう目立った学校行事はない。あるのは年が明けてからの持久走大会くらいだ。持久走大会にモチベがある人なんて前世が競走馬の人くらいだろう。当然一般的な見解は完全に外れイベント扱いだ。


 そんな閉塞感と気だるさに満ちたクラスに対して、ある教師(若めのイキった男教師に多め)は怒りながら「やる気を出せ」と一喝し、ある教師(おじいちゃん先生)は呆れながらも「運動会で疲れているだろうから」と授業を早めに切り上げて余談で失笑を買っていた。

 色々な教師が手を変え品を変え生徒のやる気を出させようと試みてはいるものの、残念ながら効果はないようだ。まぁその程度でやる気が出るなら何もしなくてもやる気が出ていることだろう。ほとんどの場合で教師の頑張りは無駄なものだった。


 しかし意外な教科の教師の言葉だけは効果覿面だった。

 その教科とは家庭科だった。

 あるものは作れることに喜び、あるものは食べられることに喜んでいた。

 さっきまでとは全く違う明るい雰囲気の中、家庭科のおばさんがクラスに通知する。


 「来週は家庭科室にエプロンを持って集合してください」


 なるほど、たしかに家庭科には唯一ひとつだけ盛り上がるイベントがあった。その切り札をこのタイミングで切ってくるとはこのおばさんやるな。

 そう思いながら俺はスマホに「来週調理実習、昼飯不要」とメモをした。





 この日の放課後、部活の時間の話題はもっぱら体育祭だった。


 「もうわたし次の日から筋肉痛がやばくて」

 「私もですよ。ずっとふくらはぎが痛くて大変でした」

 そう言って佐々木と白川はふたりして自分のふくらはぎをさする。ちなみに白川はブレザーを着ており、佐々木はブレザーを着ていない。決してブレザー姿が嫌いというわけではない。おっしゃるとおりブレザーの良さもわかる。しかし男子高校生の俗物的な欲求には抗えないものがあるのもまた確かだ。


 というかブレザーを凝視してたから気づいたけど、なんか白川前見た時と違うな。なんだろう。・・・。

 ああ、髪切ったのか。切るなら体育祭の前にすればいいのにと思うが、きっと女子には女子のルールがあるのだろう。

 「なんですか?」

 「い、いや・・・」

 目が合って、すぐに目をそらす。いかん、白川を凝視していたのが本人にばれた。恥ずかしい。


 「斉藤くんは大丈夫でした?」

 「え?あ、あぁ俺はまぁそんな走ってないし・・・」

 追求されなかったことに安堵しつつ何とも言えない返答をする。

 「でも借り物競走では随分活躍してたじゃん」

 佐々木がにやにやしながらそんなことを言ってくる。


 「だってお前らが・・・」

 別に俺が頼んだわけじゃないし、むしろ俺も戸惑ってるんだが・・・という気持ちをこめた目線で佐々木含む女子全員を睥睨する。

 だが各々つい先程まで楽しげに歓談していたときとは違う表情をしている。

 佐々木は変わらずニヤニヤ。

 順は呆れているような表情だ。

 白川は恥ずかしさを圧し殺したような、しかしどこか優しさを感じる、でもやっぱり照れ隠しというような笑みを浮かべている。

 北本は持っている本で顔を隠しつつ窓の方を向き、意地でも表情を見せないようにしている。でもなぜかどのような表情をしているかは何となくわかってしまった。


 「・・・」

 なんとも言えないきまりの悪さに思わず黙ってしまう。

 お前が変なこと言うせいだぞ、という視線を佐々木に向ける。


 佐々木は笑ってごまかす。

 なんだか日に日にこの部活の空気が複雑になっているような気がするのは気のせいだろうか。



 結局この日適当におしゃべりしていたら時間が来たのだった。



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