16. 安寧の地、喪失
昼休みになり、またも頭を悩ます問題が生まれた。
図書室に行ってもよいのだろうかという問題である。
白川のおかげで幾分マシになったが、教室に居づらいことは変わらない。
しかし図書室は、もし佐々木がいたら居づらいなんてものじゃない。
選択肢は3つだ。
1.教室に残る
2,図書室に行く
3.別の場所に行く
1はできれば回避したい。白川の取り巻きのせいで俺の周りは非常にうるさい。
3は選択肢としてはあるが論外であろう。この2週間で校舎の全体図はだいたい把握したが、図書室を超えるベストスペースはありそうになかった。もう一度それを求めて流浪の身になるのははっきり言って面倒だ。
となると2しかない。まず佐々木が図書室にいた理由を考えると、今日あいつが図書室にいる確率は五分五分と言ったところだろう。
あいつの本来の性格を考慮すると、今日は教室で交友を深めていると考えるのが自然である。
それにもしあいつが図書室にいたとしても、あのスペースをみすみす失うのも癪だ。これ以上あいつに俺の環境を破壊されてたまるか。奪い返すくらいの気概がないとな。
己を奮い立たせ、席をたった。
「また逢引に行かれるのですか。」
「なっ。」
思いもよらないところから思いもよらないことを言われる。
「何を言うんだ北本。俺はただ図書室のあそこが好きなだけだ。他意はない。」
「ああ、そうですか。私はてっきり佐々木さんとの愛を深めに行くのかと。」
「はは、面白い冗談だね。」
白川もこの冗談をいたく気に入ったみたいだ。
「斉藤くん。」
「は、はい。」
白川は鬼の形相でこちらを見ていた。
「どちらに行かれるんです?」
「い、いやあ、図書室に行こうかな~と。
・・・
思ったけどやっぱやめとこうかな・・・」
冷や汗が止まらない。意味もなく教室に貼ってある掲示物を読んでみたりしたが動悸が収まる気配はない。
「そうですか。いいんですよ、別に図書室に行っても。そこで誰と会おうとも。」
「そ、それよりも今日はいい天気だな。春らしいおだやかな晴れだ。」
「斉藤くん。」
「教室ってのは良いもんだね。うん、ずっとここにいよう。教室最高。」
白川は何事もなかったように女子たちとの会話に戻っていた。
おい中谷。にやにやしながらこっちを見るな。
ったく、なんだ北本のやつ。お前のせいで強制的に選択肢1が選ばれてしまったじゃないか。こいつも大概何を考えているかさっぱりわからないな・・・。
仕方なく俺は残りの昼休みをうららかな春の陽気の観察で潰した。
放課後になる。もう教室での修羅場はごめんだ。
「おい、早く教室を出ようぜ。」
白川と北本に小声で伝える。
二人も反対する理由はないようで急いで準備をしてくれる。
しかしヤツの方が一足早かった。
「まーーーさくーーーん」
だああ、こうなるのが嫌だったんだ。
「ねぇ、なんで昼休み図書室来てくれなかったの?わたしずーーっと一人で待ってたんだよぉ。もしかして・・・もうわたしには飽きたの・・・?」
頭が痛くなってきた。
「またわけのわからないことを・・・。とにかく話の続きは図書室に言ってからだ。ほら行くぞ。」
佐々木の手を握り教室を一目散に出る。くっそなんでこんな思いをしなくちゃいけないんだ。




