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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第9章 答を出すには早すぎる
178/241

174. Case4: 白川香織の場合




 さて・・・・・・・。

 「最後に何か言いたいことはあるか?」

 クラスのところに戻るやいなやこれまでとは比べ物にならないほどの殺気に満ちた鈴木に静かな声でそう言われる。どうやらこれが辞世の句となるらしい。


 「話せばわかる」

 なるほど、五一五事件の犬養毅はきっとこんな心持ちだったのだろう。



 「斉藤あんたやるじゃんw」

 死を覚悟したところに後ろの女子が俺と鈴木の間に割り込んできた。


 「あんたほんとにモテるのね」

 「い、いや、そんなはずはないんだが・・・というか今回は多分消去法というかなんというか・・・」

 「またまた~」

 「てかきたもっちゃん斉藤のことを・・・へぇーー・・・」


 女子特有の死ぬほどうざい絡み方をされているが、今回だけはこの女子たちが命の恩人だ。感謝したい。おかげで男子は俺に攻撃できないでいる。例の事件のおかげで男子たちは女子に強く出られないようだ。あれ、まだそれ解決してないの?


 というか北本ってきたもっちゃんって呼ばれてるのか。

 怒りをぶつける相手を失った男子は拳を握りしめていた。


 なにはともあれ九死に一生を得た。

 俺はさすがにここには居られないので当初いたクラスの集団の後方に移動する。移動するときも肩や背中を叩かれたり話しかけられたりと女子に色々絡まれたが、なんとか男子の攻撃が飛んでこない位置まで移動することができた。



 女子の頭越しに目を凝らしてスタートラインを見る。

 「お」

 そこには見慣れた均整の取れたシルエット、ポニーテールの白川が立っていた。


 『いよいよ最終レースです』

 放送部のアナウンスがあった。これが最終レースらしい。



 もう耳も慣れたピストルの音が鳴ってレースが始まった。

 みんながお題箱目指して全力疾走する。


 しかし、またしても走者全員がお題箱を前に止まった。この借り物競争ちょっとお題に気合入れすぎじゃありませんかね。

 またしてもランナーは全員数十秒立ち止まる。

 そんな中最初に動いたのは白川だった。


 白川は意を決した表情でこちらに駆け寄ってくる。

 ここまではいいんだ、ここまでは誰でもどんなお題でも大体なる流れだ。


 息を切らした白川はクラスの集まりの前に立つ。

 男子たちはすぐに立てるようにか、いつの間にか座り方があぐらからヤンキー座りになっていた。



 深く呼吸をする白川。

 男子女子関係なく白川の言葉を固唾を呑んで見守っている。

 ・・・。




 「斉藤くん」


 白川の透き通るような声が響く。

 そしてクラス全員の顔がこちらに向いた。

 「・・・」

 女子に背中を押されながら最前列に行く。



 「来て、くれますか?」

 「そんなこと聞いたのお前が初めてだわ。」

 「随分色々な方に呼ばれていましたね」

 白川は呆れたような拗ねたような怒っているような複雑な表情をする。


 「うるせぇほら行くぞ」

 「はい!」

 途端に嬉しそうな顔になる白川。ほんとにころころ表情が変わるやつだ。


 走り慣れた道を走ってゴールのところまで来た。委員長と会うのももう5回目だ。委員長は驚きを通り越して呆れているような顔をしていた。そりゃそうだ。いくらなんでもこれは異常だろう。


 白川はお題の紙を綴じたまますっと渡す。

 委員長が開いて確認する。その瞬間委員長の表情が納得したような優しいものに変わった気がした。

 委員長は俺の顔を見る。

 委員長はうなずきながら優しい微笑みをたたえてこう言った。

 「OKです」

 係の人に誘導されて俺たちは1位の旗のところに腰を下ろした。


 白川は何も言わない。が、なぜかずっと嬉しそうな表情をしている。

 他のクラスの人は時間がかかっているようだ。さて、どういうお題だったのだろう。

 というか俺はお題のことを白川に聞いてもいいのだろうか。

 なぜだかその行為は何か決定的な意味を持つような予感がした。



 「・・・聞いてもいいか?」

 それっぽい予感がしたが、普通に好奇心に負けた。が、直截は聞く勇気が出なかった。



 「ふふっ。だめ、です」

 白川は幸せそうな表情をしながらそう答えたのだった。まだ結末は許されないようだ。


 俺は仕方なくそれを受け入れてこれ以上何も言わなかった。

 白川もそこからは何も言わなかった。




 だが、レースが終わるまでのその時間はあっという間のような、永遠のような、騒がしいような、静かなような不思議な時間で、そしてとても温かい気持ちになる幸せな時間だった。





 

 最終レースということもあって俺はクラスには戻らなかった。まぁ正直最終レースじゃなくても逃げ出していたと思う。

 それはそうだ。ライオンが集まっているところに喜んでいく動物などいない。君子危うきに近寄らずってやつだ。


 仕方なくクラスのテントとは逆の方を歩く。


 「げ」

 「げ、って何なの」

 「ほんとに来てたのかよ」


 どうやら適当に歩いているうちに保護者席のあるテントの方に来てしまったらしい。

 そして不幸にも母親にばったりと会ってしまった。



 「あんた、随分人気者なのね」

 「うるせぇ」

 最悪だ。借り物競争で借りられる様子を見られていたらしい。

 俺は恥ずかしくなって小走りに逃げる。


 はぁ、なんだかどっと疲れが来た。


 もういいや適当にどっかの木陰に座ってよう。



 そうしてテントから離れた木の下にゆっくりと座って少し休憩することにした。

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