173. Case3: 北本雫の場合
「おい」
「お前、3回目だぞ」
クラスのところに戻ると予想通りの詰問に遭う。
「い、いや、俺だってなにがなんだか。」
「お題はなんだったんだよ」
「時間がなくて聞けなかった」
「は?」
「仕方ないだろ。最下位だったから時間がなかったんだよ」
事実(聞き取れなかった)を伝えると語弊がありそうなので嘘でごまかした。てか正直もう相手をするのが面倒になってきた。こいつらどんだけ女子に借りられたいんだよ。
「ほら、次のレース始まるぞ」
男子の怒りは収まっていないような様子ではあるが、なんとか話を逸らすことができた。
ふぅと胸を撫で下ろして俺もスタートラインのほうを見る。
スタートラインを見ると、またしても知り合いが立っていた。あの薄いシルエットは・・・北本だ。トラックに残っている人の数を見る限りだと借り物競争もそろそろ終盤だということがわかった。
レースが始まった。もう何度も見た光景だが、まぁ女子が走っている様子はいくら見ても嫌なものではない。
お題箱に続々ランナーが着く。が、再びみんな立ち止まっていた。この感じはまたお題が人なのだろうというのはさすがに予想できるようになった。
「・・・」
男子は真剣な眼差しで見ている。
確かにそろそろ彼らが期待しているような類のお題が出てきそうな気もしないでもない。実際さっきのお題も"そっち寄り"にはなってきてたし。
数十秒経ったが、ランナーはいまだ誰一人動かない。
次々と意を決した人から動き出しはじめた。
その中にいた北本が唇をかみしめてこちらに駆け寄ってくる。
さすがにもう俺の出番はないだろう。でも、もし「そういうお題」だったら・・・。いや、もうそれはさっき自意識過剰だったじゃないか。
俺は意識的に北本以外のランナーに目を向けていた。
・・・。
しかしクラスの集まりの少し前に立ち止まった北本が誰かを連れて行く様子がないので顔を向ける。
何をしているのだろうかと見ると北本は何も言わずもじもじしている。
刹那、目が合う。
北本はすぐに目をそらす。
なんだよ、何照れてるんだよ。
「さ、斉藤くん!」
「は、はい」
油断していたら突然指名されたので小学生のような元気な返事をしてしまった。
「・・・」
「・・・行けばいいのか?」
「・・・」
北本はこくんとうなずく。お前急に女の子みたいなかわいい顔するなよ。かわいく見えちゃうだろ。
なんだか最近しおらしい北本をやたら見る気がする。
「ほら」
恥ずかしがって立ち尽くす北本を促して一緒に走る。ふと雨の中走ったのを思い出した。
4回目のやり取りを委員長と行い3位の旗の下に座る。しかしお題を確認する委員長はなぜか先程よりも驚いていないように思えた。
「・・・」
北本は顔を真っ赤にして何も言わずうつむいている。
「・・・」
俺もなんだか話を切り出しにくかった。
これはいくらなんでも、そういうことなのだろうか。
でも北本が、俺を?
まぁ消去法ということもあるし。
って俺は誰に言い訳してるんだ。
係の人が来る。このレースも終わったようだ。
「・・・」
北本は最後まで何も言わなかった。
「じゃあな」
何も言わずに去るのもなんだか変なので別れ際にそういう。
「・・・ありがとうございました」
北本は最後の最後で消え入るような声でそういった。その瞬間は周りの喧騒が一気に静まり返ったような感覚がした。
「ああ」
俺はその声に少し笑いながら手を振ってクラスの方に歩き出した。




