172. Case2: 三田順の場合
「同じ部活の人だと」
座りながら聞かれる前に男子にお題の内容を伝える。
しかしこの先制攻撃(防御?)が功を奏したようで、その後殺されることも何も言われることもなかった。
そこから数レースか行われたが、お題はいずれも「自転車の鍵」だとか「ピアノの弾ける人」などで、さすがに俺の出番は無かった。
そんなこんなでもう何レース目かはわからないが、そろそろ借り物競走も飽きてきたなというところでまたしても知り合いらしき姿がスタートラインに見えた。
あの小さなシルエットは・・・順だ。
順のレースが始まる。
気のせいだろうか、お題箱に到着してお題を目にした走者がみんな一瞬止まったように見えた。
順も同様で数秒お題の紙をじっと見る。
いつにも増してゆっくりとした歩みでとてとてと順がこちらに向かってきた。
え、こちらに?
「・・・」
嫌な予感通り、順は俺の前で立ち止まり、前かがみの姿勢で俺の体操服の袖を引っ張る。
「俺?」
順はこくんとうなずく。
袖をぐいぐいと引っ張り、立ちあがるように促されるので仕方なく立ち上がる。ちょっと、また俺かよ。
今度は俺が前かがみになりながら順に引っ張られて走る。少し後ろが気になったが振り返る勇気はなかった。
競走とは思えないほどゆったりとゴールに到着する。
ゴールに立つ委員長に紙を渡す順。この光景を見るのももう3回目だ。
さすがの委員長も同じ人が3回も来ることは想定していなかったようで、この状況には驚いているようだ。
「・・・OKです」
OKなのかよ。
4の旗の近くに座る。てかこれラスじゃん。
なにも言わずにしゃがんでいる順の方をちらっと見る。
「・・・」
順は何も言わない。さっき川に行ったときとは随分違う態度だなおい。
なぁ、どんなお題だったんだよ。
・・・。
もしや、今度こそか。今度こそなのか。
まぁ確かに
「移動お願いします」
係の人に移動を促される。ビリだったのですぐに移動しないといけないようだ。
順はこちらを見ることなく立ち去ろうとする。
「お題なんだったんだ?」
このままでは気になって夜も眠れない。引き止める形になってしまうが、順にお題のことを聞いてみる。
「・・・・・・・・・ぁういせぃ・・・」
立ち止まった順は振り返ることなく小さな声でぼそっと言って立ち去ってしまった。
ラノベ主人公のごとく「え?なんだって?」という暇もなく順はいなくなっていた。
おいおい、なんて言ったんだよ。
「〇〇異性」だとは思うが、前半がわからない。・・・ぁう。「気が合う」とかかな。
だが少なくとも、「好きな異性」ではないことはわかった。
つまりまた俺は自意識過剰だったというわけか。




