167. 女にボコボコにされる情けない男がこちら
「佐々木『の』ときは?」
一瞬、周りの音がすべて止んだような錯覚に陥った。
いや、実際本当に少し時間が止まったと思う。
「へぇーーまるで佐々木じゃない時があるような言い方だねーーー」
順は鬼の首を取ったような顔で俺を詰めてくる。
「いや・・・」
必死に絞り出した言葉はひらがな2つが限界だった。
俺は悟った。犯したおおきすぎる過ちを。そして、死を。
気持ちを切り替えて~なんて冷静ぶって言っていたが何も気持ちは切り替わっていなかった。むしろそれが裏目に出た。北本のことを言わないように意識するあまり、思わず余計なことを言ってしまった。
「おいおい思わぬ大物がかかったなぁ・・・えぇ?」
弁当を横に置いた順がこれまで聞いたこともないような口調でしゃべる。しかもこころなしかさっきよりも楽しそうな顔をしている。まるで目の前の獲物をどう調理しようか考えているような、そんなサディスティックな目をしている。
「もちろん話してくれるよね?」
「・・・もし断ったら?」
俎上の鯉、もとい俺はせめてもの抵抗を試みる。
「いますぐかおりちゃんに電話する」
「ごめんなさい全て話します。」
「・・・・・・その態度もそれはそれでなんかひっかかるなぁ」
じゃあどうすりゃいいんだよ。
「で、誰を連れ込んだの?」
「連れ込んだって・・・随分人聞きが悪いなぁ・・・」
「でもやることヤったんでしょ?」
「してないしてない!」
必死に否定する。
「それは使ってない?」
鋭い視線で俺の股間を指す。
「未使用未使用」
こいつ前から思ってたけど部員ガールズの中で一番頭がピンクだよな。しかもそういうことをなんの臆面もなくズバズバ言いやがる。聞いているこっちが少し恥ずかしくなる。
「いつ連れ込んだの?」
「連れ込んだって言うか、成り行きで・・・」
あくまで雨が降ったから、それだけの理由だ。ほんとにそれ以上でもそれ以下でもない。
「最近?」
「最近最近」
「同い年?」
「同い年同い年」
順が顎を上げて改めて俺の目をじっと見る。
「・・・しずくちゃんか」
「しずくちゃんしずくちゃん・・・ってなんでわかった」
勢いで答えてしまう。
「女の勘」
・・・・・・恐ろしい。女という生き物はなんとも恐ろしい。
アニメやドラマでよく聞くが本当にあるんだそれ。
「ははーん、しずくちゃんも、ほーーーーーん、なるほど」
「多分お察しのとおりです・・・」
しずくちゃん"も"、という言い方でおおよそ順が推理したことがわかった。
つまりしずくちゃんも佐々木と同様のなんでも券の使い方をした、ということだ。
「良かった~今日付いてきて」
急に順がいつものようなかわいらしい笑顔を浮かべた。
「・・・言っとくけど雨が降って仕方なくうちに呼んだだけだからな」
「どうだか」
一応弁明は試みたが疑いは消えることなく、順の笑顔だけが消えた。
「じゃあそろそろ戻ろうか」
順の言葉を聞いてスマホで時間を確認する。
別に俺は戻る必要はないのだが、さすがに逆らえる雰囲気ではない。
俺はとぼとぼ順の後ろをついていった。まるで見えないリールに繋がれているような気分だ。
体育祭の栞を確認すると今は女子による騎馬戦が行われているぐらいだろう。
「わたしの借り物競走見ててね」
「・・・」
「見ててね」
「はい・・・」
俺の中のかわいらしい順のイメージが一気に崩壊してしまった。
代わりに思ったことはただひとつ。
こいつ、怒り方が白川にそっくりだ。




