165. Riverside
「ふう」
さすがにここまで来たら大丈夫だろうと思いながらも一応辺りを見渡す。どうやら追ってはいないようだ。
しかし平日昼間に弁当箱を持った体操着姿の男女ふたりが歩いているというのは誰がどう考えても異常な光景なので、極力目立たないように気を使いながら川岸にある遊歩道を歩いて座れそうなところを探す。
「今日はほんとにいい天気だね」
力強い川の音が聞こえる中、順が空を見上げながらつぶやく。
「雨さえ降ってくれれば体育祭もなかったのに」
俺はぶっきらぼうに答える。
「あはは」
しかしまぁ天気がいいのは間違いない。
おそらくそのせいもあるのだろう、平日の昼ではあるがこの遊歩道は格好の散歩道ということもあり老人を中心にそれなりの数の人が遊んだり歩いたり座っていたりした。
近くの木々からは種類はわからないが鳥のさえずりも聞こえてくる。ちょっと前までは蝉の声がうるさかったが、これなら俺の乏しい感受性でもいくらか風情も感じられる。
「・・・」
なんとものどかな雰囲気が漂う空間だ。俺はこの雰囲気がとても好きである。少なくともあのグラウンドよりは幾分気が晴れる。
なんと言うかこう、全体的に時間がゆっくり流れている感じがする。誰も急いでおらず、誰も他の人を気にしていない。
それは老人が多いせいか、それとも水の音が聞こえるせいか。それとも平日の昼間にこんな場所にいられるという時点でその人の心には余裕があるのだろうか。
少し行けば繁華街があるというのにそれを一切感じさせない。あちらは人が川のように流れている忙しない場所だが、こちらはむしろそれの裏返しと言った具合に時間が丁寧に流れている。
「・・・・・・」
だがそんな穏やかな気持ちを壊すような思い出がこの土地にあったことをどうしても思い返してしまう。
それは言わずもがな先日の北本とのデートである。
辺りの様子はあのときと全く違うが、今こうして歩いている道はまさにあのとき通った北本とのデートコースであり、そして雨にやられて色々あったところである。
なんとしてもこのことは順に悟られないようにしなくては。
「どうしたの?」
「え」
不意に飛んできた順の声に思わず答える声が上ずる。
「なんだか深刻そうな顔をしてたけど」
「いや、別に」
「・・・」
ふーん、と言った感じで順は怪訝そうな顔をしている。
いかんいかん、むしろ悟られないことを意識して悟られてしまう。
「あ、あそこに座るか」
俺は気持ちを切り替えて、いい感じのベンチというかちょっとした段差というかなんとも言えない石段に腰掛けた。




