163. 都合が良ければ『個性』と呼ぶ。都合が悪ければ『不適合』呼ばわりされる。それが社会
きょろきょろと辺りを見てから足早に学校を抜け出す。
追手が居ないことを確認して「ふう」と一息つく。
「ふたりきりで話すのは久しぶりだね」
川までは数分歩く必要がある。自然、順との話が弾む。
「そう・・・かもな」
言われてみれば順とふたりというのはいつしかの公園以来な気がする。なんせ最近他の女子の用事に駆り出されることが多かったからな・・・。
「・・・なんだよ」
順がこちらをじっと見てくる。
「というか、最近いつも他の女子と一緒にいるよねまあくん」
順の目がジト目に変わる。
「・・・え?」
「文化祭はかおりちゃん、誕生日ではみなみちゃん。いっつも誰かと一緒にいるじゃん」
なかなか耳の痛いことを言われながらも、北本のことはバレていないことに心のなかで安堵していた。
「別に俺が頼んでしてるわけじゃないんだが」
一応自分に罪がないアピールをしておく。
「まぁ~、随分いいご身分ですこと」
そう言われてもなぁ・・・。
「第一あいつらが変わってるんだよ。」
なんでこんな平凡な俺なんかと・・・、と常々思っている。
別に絶世の美男子というわけでもなければ大富豪というわけでもないし、世界一の話術を持っているわけでもなければべらぼうに頭がいいわけでもない。
なのになんであいつらは俺と一緒にいたがるんだろうか。もしかしてこれがモテ期というやつなのだろうか。
・・・まぁもし仮にそうだとしても俺がなにかするということはないのだが。
「・・・」
順はだまる。
俺も特に言い返すこともないので喋らず目的地に向けて歩みを進めた。
「まあくんは特別、だよ?少なくともわたしにとってはね」
数歩歩いたところでそんな突拍子もないことを順がすっと言ってきた。
「特別?俺が?」
思わず聞き返す。俺に特別な要素なんてないだろ。もしや特別しょーもないってこと?特徴がないのが特徴的なあれか?
「はじめて私と同じ世界を見てる人だから」
順はいつも仰々しいことを言う。だがその言わんとすることはわかっているつもりだ。
「ただ冷めてるだけだろ」
だから俺は間髪入れず言い返す。
「でも実際あのグラウンドを抜け出したのはわたしたちだけだよ?」
「・・・」
まぁ、確かに。
・・・あぁ、そういうことが言いたいのね。
「みんな楽しいフリをしている。共有しているフリをしている。他人をわかったフリをしている。そこにある距離を見えないふりをしている」
「まぁ、な」
俺は相槌をしながらふとグラウンドの方を振り返った。
確かにあの空間はなんとなく居心地が悪い。
文化祭を経て、俺のそういう部分がなくなったというか少なくなったというか、かなり丸くなった自覚はある。前までならああいう空間とそれに属する人たちを敵対視していたかもしれないが、今はそれを見ても特に何も思わない。
しかし、その感覚がなくなった、というわけではない。
事実文化祭の時だって油断すれば校舎から抜け出して外に出てたし、今だって何の気なしに自然とグラウンドの外に足が向いている。
俺の生まれながらの性質として「ああいう空間」は苦手なんだ。どちらかというと居たい空間ではない。
ああいう空間というのは、ちょうど順が言ったような空間、つまり人々が他人と自分を騙して色んなフリをしている空間だ。
もちろん過半数は別に演技でも無理しているわけでもなく楽しんでいるとは思う。
が、教師が「帰ってもいいよ」と言われたら帰るであろう人も少なからずいるはずだ。
そういう歪さを孕んだ空間がまさにあのグラウンドであり、言ってしまえば前の文化祭なのだ。
「でも一般人にとっては他人は恐怖の対象ではないらしいからな」
だがそういう空間は往々にして存在している。いや、一般人に言わせてみればそれこそが社会と主張するかもしれない。騙すことを慣れる、フリをすることを大人になる、それを社会と説教されるかも知れない。
要するに俺たちはただの不適合者なのだ。




