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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第9章 答を出すには早すぎる
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162. 学校行事は逃げるが勝ち



 「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」

 「ああ・・・・・・」

 俺たちはムカデの姿で全力で駆け抜けた。

 が、俺たちの前にゴールテープは切られていた。


 結果は2位だった。


 全力を尽くしたが、少し間に合わなかった。

 息を整えながら所定の位置に座る。


 「・・・・・・」

 俺の心に悔しいという感情があることに気づく。

 ただの学校行事である。

 ただの競争である。

 勝っても負けても金が貰えたりはしない。

 でもそんなことは考えるまでもなく、ただ自分たちが1位じゃなかったということが悔しい。

 なんだろうこの純粋な気持ちは。

 汗を拭って地面を見つめる。

 息を切らしながら俺は悔しいという感情に対峙していた。


 

 クラスのテントの方に戻る。

 男子たちクラスに戻るが、未だに女子とは物理的にも心の距離的にも離れているように見えた。果たして1位を取ったら女子との関係が改善したのかと言うと微妙な気もするが、まぁ話のきっかけにはなったには違いない。


 「・・・」

 言わずもがな男子はこの状況を改善したいと思っている。

 女子はというと、俺から見るに、男子をそこまで本気で嫌がっているとか怒っているというふうには見えない。なんとなく避けている、という感じでなにかのきっかけがあればふと元に戻るのではないだろうか、という感じだ。

 「・・・・・・」

 これも雑務というわけか。

 そんなことを思いながら俺はクラスの女子の中でも特に男子への当たりがきつい女子のもとに歩み寄った。



 少ししてテントに入る。

 「惜しかったですね」

 ひとり座る俺に対して、同じくひとりでいる北本が話しかけてきた。


 「珍しい。見てたのか」

 「え、ええ、まぁ・・・」

 北本のことだからてっきり我関せずでテントでひとり本でも読んでるのかと。

 「とにかく俺の出番は終わりだ」

 「早いですね」

 「おかげで午後が暇になりそうだ」

 そう言いながら自分のかばんを枕にして寝っ転がった。が、残念ながら視線の先にはテントの布しか見えなかった。


 「それもそれでいいじゃないですか」

 北本が立ち上がる。周りのクラスメイトが昼飯の準備でテントに集まってきたからだ。

 「まぁ何か時間をつぶす方法を見つけるよ」

 そう言って俺も弁当を持って立ち上がり、クラスのテントから離れた。




 これまでもクラスから離れて飯を食べていたせいで今日も何も考えずテントから離れたはいいものの、行くあてが全く思いつかない。

 うろうろするが、残念ながらよさげなスポットはどこも先客がいた。

 じゃあいっそいつもの通り図書室に行くか、とも思ったがなんか違う気がする。

 ・・・。

 こうなっては取る選択は一つしか無い。

 俺は学校の敷地から抜け出すことにした。




 今日は体育祭ということもあって人の出入りが多いため、簡単に脱出することができた。

 まぁ先生も誰かが脱走するなんて思っていないのだろう。なんてったってこの学校の人は基本みんな真面目だからな。


 グラウンドを出ると空気の違いを実感する。さっきまではなんとも感じなかったのに、外の空気を吸うと随分土っぽいと言うか砂っぽいところにいたんだなと驚く。

 空気の違いを感じたせいか、さらに空気の良いところに行きたいという欲がにわかに湧いてきた。飯も食いたいし、せっかくだから静かで空気の良いところに行きたい。


 いくら不真面目な俺でも、学校からあまりに遠くの場所へ行くのは気が引ける。

 近場(と言ってもそんなに近いわけでもないが)でそんなところと言えば、やはり川しかないだろう。

 俺はたまに散歩する近所の川を目的地に定めた。

 そうなると校舎をぐるっと回る必要がある。

 さすがにグラウンド側を回ると教師に見つけてくださいと言っているようなものなので逆サイドから攻めることにした。


 そう決心して体の向きを転換したその瞬間だった。

 「おわっ」

 不意に手を掴まれて素っ頓狂な声が出る。


 「あは、びっくりした?」

 「そりゃするわ」

 教師にバレたのかと思って肝が冷えた。

 しかし俺の手を掴んだ人は教師ではなかった。


 「来ちゃった」

 てへ、っと言う感じで笑う順。相変わらずかわいらしい涙ぼくろをしている。

 「来ちゃった(てへ)じゃねえよ、なんで来た。てかなんでわかった」

 「ときちゃんとご飯食べようかなって考えてたらまあくんがグラウンドを出ていくのが見えて、つい」

 つい、じゃないだろ・・・。


 「今から俺が何しようとしてるかわかってる?」

 「グラウンドにいても面白くないし、居る場所もないから適当に外でもご飯でも食べようかな~みたいな?」

 「・・・よくわかったな」

 ぐうの音も出ないほどそのとおりである。そこまでわかるということは、さてはこいつも同じ口だな?

 「一緒にいっちゃだめ?」

 順が改めて両手で俺の手を掴んでくる。彼女の触れているところに熱を持つような錯覚に陥る。

 「べ、別にだめってことはないけど・・・」

 照れていることを悟られないよう顔を背けながら答える。


 「やった!」

 ぴょんぴょん跳ねる順。なんだかよくわからない展開になったが順が楽しそうだしなんでもいっか。というか我ながらちょろい。


 「じゃあ行くか。飯は持ってきたか?」

 「うん!」

 なんとも用意周到である。

 とにかくそんなわけで急遽居場所のない者たちによるぶらり散歩が始まったのだった。


 

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