156. #ffb6c1
ふたりとも灰色のスウェットに身を包んでいる異様な光景に幾許かの面白さを感じながら立ち尽くす北本に席に着くことを促す。
「ま、まぁとにかく座れよ。お茶とかどこにあるかわかんないし、とりあえず麦茶でいい?」
「お、お構いなく・・・」
未だかなり恥ずかしそうにしている北本に麦茶の入ったコップを差し出す。
北本はおもむろに着席する。
それを見て俺は思わず突っ込む。
「向かい側座れよ」
さすがに笑ってしまった。ふたりしかいないのになんで対角線に座るんだよ。
「ご、ごめんなさい。いつものくせで」
北本はそう言って濡れた髪を触りながら照れ笑いする。
「はは、そういうこと」
なるほど部室では確かに俺と北本座る1は対角線の関係にある。
「・・・」
ふたりお茶を飲んで無言の間が生まれる。
時計の針の音だけが聞こえる。
さすがにちょっと気まずい。共通の話題をなにか・・・。
「し、しかしあのよくわからない部活も気づけば5人になったな」
やはり俺たちの共通項と言えば部活だろう。
「そうですね」
「まさかこんなに増えるとは思ってもいなかった」
振り返るほど大した歴史はないが、しかし振り返ってみると現状は入学当初・部活設立当初では想像もしていなかったことには間違いない。
「斉藤くん以外は全員女子なのはすこーし気になりますが」
「まぁそれはしかたないだろ」
何度も言うがこれはあの学校の男女比に依るものであり、俺が恣意的に女子を集めたわけでもハーレムを作ろうと画策したわけでもない。
「しかし私にとってあの部活はとてもありがたい存在です」
ようやく北本の表情が和らぐ。良かった。
「何かを気にせず勉強できるからか?」
「いえ、何かを強制されないからです」
北本はお茶を飲む。
確かにこいつは勉強する雰囲気は毎日出しているが、最後にはなんだかんだで勉強していない。
改めて考えるとはじめの頃は勉強していたようだが、次第に勉強の呪縛から解き放たれているように思える。
「お前は変わったよ。」
少し雰囲気が緩んできたので椅子の背もたれにもたれた。
「それはお互い様じゃないですか?」
「あはは、間違いない」
そう、俺たちは変わった。
閉ざしていた世界が徐々に開かれていった。
誰の手で?
俺以外のすべての人によってだ。
「毎日いろんな女の子と喋るようになって・・・毎週違う女の子とデートをして・・・・・・」
「いや・・・それは成り行きというかなんというか・・・」
北本はコップを両手で持ちながら呆れたような怒っているような微妙な目で俺を見てくる。
「で、でも一番気楽に話せるのはお前ってのはずっと変わらないから。」
「そ、そうですか・・・」
「ああ」
でも変わらないこともある。
性別は違えど、学校で一番気が合うのは北本だと俺はずっと思っているし、今のところそれは覆っていない。
「だからあの部活に北本がいてくれて嬉しいよ」
だから素直な気持ちを言う。
「・・・」
北本は何も言わず俯く。
「・・・ほんと、いつからそんな女たらしになったんですか?高校生になってからですか?生まれつきですか?」
コホンと咳払いしてから北本はそんなことを言い出す。
「いや・・・え?」
「そういう言葉を平気で言うからあんなに女子が集まるんですよ」
「いや俺は思ったことを言っただけで・・・」
「そういうところが、そういうところが・・・ほんとに・・・」
「そういうところがなんなんだよ」
「・・・私は惑わされませんから!」
勢いよくお茶を飲み干して立ち上がり、テーブルに手を付きながら俺の方に前かがみになってそう宣言する北本。
「・・・!」
その瞬間、その間隙から鮮やかなふたつの何かが見えた。




