150. 貴方とともに
「お前ほんとに小で大丈夫だった?」
席につくやいなやすぐに隣の北本に聞く。
知らない人に一応説明しておくとこの系列のラーメン屋の小は他のラーメン屋の言うところの大のことである。
「ええ、お腹空いてるので」
「コールはわかってる?」
「調べてきたので」
事前に券を渡してあるので席についたらすぐに自分たちの番が回ってきた。それにしても北本の格好とラーメン屋の背景がミスマッチで面白い。
「お姉さん、にんにく、どうします?」
「全マシで」
────時が止まった。
隣から想像だにしない言葉が聞こえてきた気がした。
「おにいさん、にんにくどうします?」
「え、あ、アブラマシカラメで」
一種放心状態のまま麺が到着する。
「わぁ、美味しそうですね」
「お、お前、大丈夫・・・?」
とにかく北本が心配で仕方ない。
「なにがですか?」
「食べ切れそう?」
北本の前には俺でも頼んだことのないようなもやしと脂の山が築かれていた。
「え?ああ、大丈夫ですよもちろん。それよりはやく食べましょう。聞くところによると店の回転率を下げることはご法度らしいですので」
「あ、ああ・・・」
それ以降北本は一言も喋らず黙々と目の前の山と向き合っていた。
「ごちそうさまでした」
「え、もう食い終わったの?」
「ええ」
俺もぼっちの固有スキルである早食いには多少の自信があったが、北本のそれには全く敵わなかった。
「確か丼はひっくり返すのがマナーなんですよね?」
「待て待て待て」
器を持つ北本の手を止める。
こいつにはとりあえずネットリテラシーを教える必要があると痛感した俺だった。
腹をさすりながらラーメン店を後にする。
「初ラーメン屋はどうだった?」
ぶらぶら歩きながら北本に感想を聞く。
「とっても美味しかったです。」
とても満足そうだ。ただあれがラーメンのスタンダードとは認識しないでもらいたいという気持ちがどこかに強くある。
「これからならひとりでも来れるんじゃないか?」
「・・・そうですね。女性のお客さんも何人かおられましたし」
俺もびっくりしたことだが、意外と女の客も数人だが並んでいた。多分全マシはしないだろうけど。
「何事も最初さえ乗り越えれば案外たいしたことないからな」
「ええ」
軽い相槌が返ってくる。
まぁその最初がなかなか難しいというのは痛いほど知っているのだが。特に俺たちみたいな臆病者には。
「言うのは簡単なんだけどな・・・」
そんな気持ちを込めて小声で付け加える。
「・・・ええ」
さっきよりも実感のこもった相槌が来た。思い当たる節があるようだ。と言ってもだいたいの人が共通して持つ感覚だろう。
「でも・・・」
北本が周りの雑踏にかき消されそうな小さな声でつぶやく。
「一緒に行ってくれる人がいれば行うことも簡単でしたよ」
右手で髪をくるくるいじりながら気恥ずかしそうにそんなことを言い出した。
「そ、そうか・・・」
なんだよそのかわいらしい仕草は。うっかりかわいいと思いそうになったじゃないか。




