147. 筆者のお気に入りはスマプリです
「ここは?」
「見てのとおり映画館です。」
安堵と期待と不安の中、北本が進む方向についていった先はこのへんでは一番大きい映画館だった。
「映画見んの?」
予想していなかった場所だったので思ったことを素直に質問する。
「確認ですが、斉藤くん、あなたアニメとか好きでしたよね?」
映画館に来て映画見ないわけないだろということなのか、俺の質問に対する答えはなく突拍子もない質問で返される。
「え?あ、あぁまぁ・・・」
あんまりこの趣味については胸を張ってはいと言いたいと思っていないのだが、否定するわけにも行かないので微妙な返事をしてしまった。昔気質のアニメオタクなのでオタクであることをあまり公言したくないという謎のこだわりがある。
「ではじゃあこのアニメも知ってますよね?」
北本が壁に掲示されているある映画のポスターを指差す。
「・・・」
それは深夜アニメではなく日曜日の午前中にやっているタイプのアニメで、かわいくて強い女の子がバトルするタイプのいわゆる女児向けアニメだった。
「なんか俺を試していたりする?」
さすがに警戒する。
「どういう意味ですか?」
どうやら罠というわけではなさそうだ。
「まぁ知ってるけどさ」
俺のキモさを全世界に露わにさせるために聞いているというわけではないようだと判断して正直に答える。
「良かった、思ったとおりでした。」
「・・・」
思わず引きつった笑いをしてしまう。
こいつは俺を何だと思っているのだろうか。俺をバカにしているのだろうか。
俺がアニメとかの類を好きだということは多分どこかの折に俺自身が言っていた、または何かしらの機会で知ったということは容易に考えられる。
しかしプリなんたらについて言及した覚えはない。いや、絶対に口にしていない。
こいつの「思ったとおり」という言葉には、
『オタクならプリなんたらのアニメを見ていることが当然』
という意味が込められているのか、それとも、
『お前みたいなオタクならこういうのも見てるだろどうせ』
という意味が込められているのかどちらだろうか。俺は前者だと信じたい。後者なら泣いちゃう。
「言っておくがオタクだからってこういう種類のアニメを見てる人は結構レアだぞ」
前者であることにかけて北本に真実を教える。
俺の認識ではアニメを見る層の中でもそこまで女児アニメに精通している人は多くない印象だ。
・・・女児アニメに精通しているって言い方キモさが極まってるな。なんか恥ずかしくなってきたし帰っていい?
「え、そうなんですか」
北本は純粋に驚いていた。よかった、前者だった。
というかこいつはどういう感覚をこれまで持っていたんだろうか。
「お前俺がこのアニメ見てることあんまり広げるなよ?」
なんでここに来て俺の秘密の女児アニメ趣味をバラさなきゃいけないんだろうか。
「てかお前がこのアニメ見てるの結構意外なんだが」
世間的には俺みたいな高校生の男が見ていることのほうが意外というか異常ということは言われなくてもわかっている。
「これだけは昔からずっと見ていまして・・・」
へー、女子みたい。
「でも女子高生ひとりで見に来るのはなんか気が引けたと」
さすがにこのやり取りで北本が俺を連れてきた真意は察しが付いた。
「そういうことです」
当たっていたようだ。
「俺と来る方が恥ずかしくない?」
普通に男と来る方が恥ずかしくないって思うんだが。俺が一番恥ずかしい存在ということは置いておいて。
「・・・実は、ひとりで映画館に来たことがなくて・・・」
北本が少し恥ずかしそうにうつむく。
「まじか」
映画館ってひとりで来るもんじゃないのかよ。・・・知ってるよ、違うってことくらい。カップル席とかいう悪の存在がそう証明してるからな。
「まぁいいや、見るなら早く見よう」
俺は券売機の方へ歩き始める。
「そうですね」
半歩後ろをなんだか嬉しそうな北本が付いてくる。
・・・色々言いたいことはあるが、傍から見たらただの映画館デートじゃないかこれ。




