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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第9章 答を出すには早すぎる
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143. せめてもの抵抗



 「はぁぁ、つかれたぁ」

 ようやく佐々木のいる砂浜まで着き、汚れることを気にする余裕もなく俺はその場に腰を下ろした。

 「ふふっ」

 一呼吸おいて顔を上げると、波打ち際でぴょんぴょん波と戯れる佐々木の姿が目に飛び込んできて思わず笑ってしまう。

 「まさくんもおいで!」

 「俺はいいよ」

 佐々木が手を降って俺を呼ぶが、この年になって全力で遊ぶのはなんだか気恥ずかしくてつい断ってしまった。

 楽しそうにきゃっきゃ言いながら元気に飛び跳ねる佐々木をその奥で雲の切れ間から見えるオレンジがかった太陽がまるで影絵のように切り取っている。

 柄になくこの風景を写真に残したい、と思ってしまった。

 俺はスマホを出して、めったに使わないがゆえにどこにあるかわからない中、ようやくカメラアプリを見つけて起動してその風景を写真に収めた。

 画面には佐々木のシルエットが写っていた。

 「どう?きれいに撮れた?」

 俺が写真を撮ってることに気づいた佐々木がこちらによってきた。

 「逆光だった。写真なんてめったに撮らないから逆光とか忘れてた」

 「でもこれはこれできれいだね」

 「ああ」

 今俺が見えている景色とはちょっと違うが、これはこれで味のある一枚に思える。

 「じゃあ次はまさくんね」

 「え?」

 そう言いながら佐々木は俺の横に座ってインカメラでふたりの写真を電光石火の早業で撮った。

 「あはは、まさくんなにこの表情」

 「お前が急に撮るからだ」

 佐々木の決まっている笑顔と対照的になんともまぬけな俺。

 「消せ消せその写真」

 さすがに恥ずかしい。

 「へへ、やだよ」

 佐々木はそう言って走ってまた波の方に行ってしまった。

 「おい!」

 仕方なく追いかける。

 結局俺も波打ち際を走ることになった。

 というかなんだよこのシチュエーション、まさにデートじゃないか!


 「はぁはぁ、いい加減にしろよな」

 「はぁ~楽しかった。」

 遠くに見えていたベンチがある方まで追いかけっこは続いた。

 「何やってんだよ、もう高1だぞ俺たち」

 息も絶え絶えの俺は佐々木に文句を言う。

 「えへへ。いいじゃん楽しかったんだし」

 「・・・まったく」

 誰にも見られてないからいいけどさ。

 「何週かしたら体育祭もあるし運動しておかないと」

 ふたりで水平線を望むベンチに座る。

 「あ、そうか。はぁ嫌だなぁ」

 「嫌なの?」

 「あんま運動好きじゃないし」

 別に勉強が好きってわけでもないが。

 「あと待ち時間が長い」

 「あはは、それはあるね」

 「まぁ体育祭はひとりか、それか順あたりと目立たないどっかでサボって終わることになるのかな」

 「・・・」

 我が部のメンバーできっと一番体育祭に乗り気でないのは順だろう。体のこともあるし。

 「でもまぁ授業よりはましか」

 前から特別高かったわけではないのだが、文化祭以降、なんだか授業のモチベーションが1段階下がったように思える。

 「後期になって授業難しくなったもんね」

 「そうそれ。だから授業がつまらない」

 なるほど原因はそれか。わからない話を50分ずっとされてもつまらないのは当然である。

 「また北本に色々教えてもらわないと」

 「・・・」

 またテストに向けて準備をしないといけなくなると思うと嫌になる。


 「・・・もう!」

 「え、なに」

 「今日は他の娘の話はしないでよ!」

 「あ」

 しまった。俺の参考文献たちの多くも言っていた。デートのときはそこにいない女子の話をしてはいけないんだった。

 「ごめん」

 今日の主役は佐々木だ。佐々木の気分を害してしまったのなら俺にすべての非がある。

 「素直に謝られてもなぁ」

 「じゃあどうすれば・・・」

 「そうだなぁ、じゃあ駅まで手、つないで」

 「・・・え」

 「それなら許してあげる」

 「・・・わかった」

 立った佐々木がこちらに手を伸ばしている。

 ほんとに言ってるの?

 主役様の言うことは絶対だ。

 俺はズボンで手を拭いて、その手に自分の手を重ねた。

 「えへへ」

 佐々木は嬉しそうだ。

 まったく、これなら砂浜を走っていたほうがまだましである。

 「・・・これくらいの抵抗はさせてもらうからね」

 「え?抵抗って?」

 「ううん、こっちの話」

 「?」

 よくわからないがそうつぶやいた佐々木の握る手の力はより強くなった。


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