142. 恋慕の潮騒
海岸には出てみたものの歩けるような砂浜はなかなか無く、しばらく海岸線に沿っていてときおりトラックが往来する道をふたり並んで歩いた。
「ずいぶん涼しくなったね」
「ああ」
海風と薄着のせいもあってか、少し前までは暑くてたまらないような日が続いていたはずなのに、今はどちらかというと少し肌寒さを感じる。
「ちょっと前までは暑かったのにな。最近の日本は夏と冬しかない気がする」
「あはは、ほんとにね」
笑う佐々木の髪がなびく。
思えばここ1ヶ月くらい佐々木とふたりっきりでゆっくり話す機会はなかった。
体感ではもっと長い、それこそ半年くらい話していなかったような気がするが多分気のせいだろう。
「お前、クラスのやつらとは仲良くやれてるのか?」
「どうしたの急に?」
「いや、今思い返したら俺とお前が出会ったきっかけはそんなことだったなと思って」
「お、覚えてたんだ・・・」
「そりゃな。まぁ自分で聞いといてなんだけど日頃の様子を見るに心配はなさそうだが。」
最近いつも女子に囲まれていて(何様)、しかもそういう生活に慣れてしまった(何様)からあれだが、本来俺は女子と当たり前に喋れるほど男子としての経験値はない人間だった。
佐々木との出会い、そしてそれからの俺との接し方の衝撃はいつまでも忘れられないだろう。
そのせいか廊下で佐々木を見かけるとつい周りと上手くやってるのかというような探りの視線を向けてしまうのが癖になっていた。
「そういえば・・・」
「そういえば?」
「あ、いや・・・」
思わず言いよどむ。
そういえば近頃は佐々木にべったりされることがなくなった。
出会ってすぐはクラスで大変なことをやらかしてくれたのに、今やそんな感じは一切ない。
それこそデートとか言い出した時は久しぶりに佐々木のあの勢いが帰ってきたかと恐れおののいたが、今日の様子はいたって普通だ。
「お、お前、会ってすぐの頃はその、あれだったのに、最近は・・・いや、何でもない」
自分で、最近俺にべったりしてこないなと言うのはさすがに驕り高ぶってる勘違い野郎にもほどがある気がして言うのが憚られた。
「あ、ほらあそこに降りれそうな砂浜があるぞ」
話題の転換を図る。
「だってまさくんがあの子しか見てないってわかっちゃったんだもん・・・」
佐々木が小さい声でぼそっと何かを言った。
「え?」
しかし声が重なり佐々木が何を言ったのかわからなかった。
「ううん、なんでもない、早く行こう!」
佐々木は急に走り出す。
「ちょ、ちょっと・・・」
止めようとしたが俺の声で佐々木は止まらなかった。
「・・・ったく」
俺は今日かれこれ3時間近く歩いて足が痛いってのにこいつはなんでそんなに元気なんだよ。
俺も仕方なくその後を追って走り出した。
その時の佐々木はなぜか俺のことを全然待ってくれず、結局砂浜まで全力疾走するはめになった。




