140. シャッター街に思いを馳せて
ずいぶん年季の入った感じの電車を降りる。休日というのに利用客は俺たち以外ほとんど見られなかった。
改札を出る。
至るところに波を模したオブジェが見られることや、何より駅を出てすぐわかった海の匂いがする強い風から、この街は海が近い街ということがすぐにわかった。
「なんとも辺鄙なところに来たなー」
「そうだね」
「まさに俺たちのデートにはおあつらえ向きってところか?」
「まさくんもわかってきたね!」
「ここに来るまでに色々聞かされたからな。」
佐々木いわく、あまり栄えていない土地の方が訪れてみて楽しいらしい。その中でも特に以前栄えた形跡が残っているようなところはより味わい深いという。
この土地は少なくとも前者は満たしていることが利用客から推察できた。
それに港町というのもなんとなくいつもの生活空間とかけ離れた雰囲気があり旅情をそそる。
「あとはこの道のスペシャリストに任せようかな」
俺は佐々木にこの後のプランを一任する。
世間一般のデートというものはおそらく男が考えるものであろうが、俺にはそんな甲斐性はない。
それにこのような形式の旅の経験者がいるんだ、ここは任せる以外の選択肢はない。その方がお互い幸せだろう。
「任されました!」
佐々木は嬉しそうに敬礼する。お前はいにしえのオタクかい。そんな彼女を見て少し笑ってしまった。
「じゃあ・・・まずはご飯を食べよう!」
「だな」
佐々木の佐々木による佐々木のためのデートがいよいよ始まった。俺は佐々木の半歩後ろを付いていく。
・・・やっぱりこれデートじゃないよな
佐々木は駅前の店を見向きもせず、その街のメインストリートと思われる大通りをまるで目的地があるようにずんずん進んでいく。
大通りにも関わらず、人通りはまばらである。
「・・・」
歩きながら周りを眺める。
通り過ぎる店たちの多くはシャッターをおろしており、潮風の影響だろうか、ひどく錆びついたシャッターの連なりが目に映る景色の寂しさに拍車をかけている。
光が灯っている建物はコンビニやファミレスなど、決まって全国展開されているチェーン店である。
それ以外は基本クリーム色と焦げ茶色だけの世界だ。
「ずいぶん寂れてるなぁ」
思わず声が漏れる。
「そうだね。でも地方なんてどこも似たようなものだよ」
「・・・そうか」
これが今の日本の地方の現実なのだろう。
なんとも寂しいものである。更地や田んぼが続く景色の何倍も寂しく感じられる。
きっとかつての繁栄、人の営みを感じられるからだ。何もないところよりも何かあったことがわかる方が物悲しい。
「・・・」
建物の多さからは想像できない静かさが、遠くで鳴く鴎の声を俺たちに届けてくれる。
その声を聞きながら俺たちの住んでいる地域を頭に浮かべる。
定期的に聞こえるクラクションの音。いつもどこかで聞こえる工事の音。夜中にどこからか聞こえてくる酔っぱらいの話し声。
田舎、と呼称するには何か違和感のある、このような地方都市の虚ろな静かさというのは、なんとも寂しく、そしてなんとも趣深い。
こんな風景には今日みたいな曇天が似合う。
「なんか、いいな」
自然と溢れた俺のつぶやきに佐々木は微笑む。なんだか佐々木がこういう街を好きだと言った理由がわかった気がした。
「まさくん何か食べたいものある?」
俺たち待つ必要を一切感じない交通量の交差点の信号を律儀に待つ。
「う~ん、なんでもいいな。ってかそれ俺が聞くべきことじゃない?」
「そうかな」
へへへと笑う佐々木。その元気な笑顔がなんだかこの景色とミスマッチで浮いている感じがして、俺もつられて笑ってしまった。




