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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第9章 答を出すには早すぎる
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132. 秋にして君を離れ


 

 夏休み・文化祭とそれなりに大きいイベントが終わり、今週からいつもの平凡で平坦な高校生活が戻ってきた。

 しかしクラスの雰囲気はというと未だ文化祭の浮かれ具合が抜けきっていないようで、見渡す限りみんなあまり授業には集中していないようだ。


 かく言う俺もそのひとり、というわけではないのだが、最近漫画がたまり気味だったためそれらをまとめて消化するために、横でしっかりノートを取っている北本をよそに漫画の新巻に読みふけっていた。

 それにしても新しい巻が出るたびに1巻から読み返したくなるのはどうにかならないものだろうか。その作品の世界観にどっぷりはまってから最新巻を読むことでその漫画を全力で味わえると思っているのは俺だけだろうか。

 俺はその欲に素直にしたがっているので今日は最新巻以外の巻もしっかり持ってきている。クラスの適当な浮かれ具合とは違って俺はサボるのにも本気だ。

 おかげで今日の午前は漫画を読んで終わりそうだ。

 そんなことを考えてにやにやしていると担任がやってきた。これから合法休みとの異名もあるロングHRが始まる。


 

 「せんせーきょうはなにをするんですかー」

 ざわざわした中始まったHRだが、さっきも言ったように俺は今このクラスではなく漫画の世界の住人なので周りを気にせず漫画を読み進める。

 改めて今の席に感謝をする。

 やはりこの席は漫画を読むのにはもってこいだ。漫画の主人公が一番うしろの席なのはきっと授業を気にしなくていいからなのだろう。窓際なら窓の外を見てたそがれることもできるし。


 「よっしゃ!」

 「やった!」

 「えー!」

 ・・・・・・。

 途端にさっきにもましてクラスがざわつき始める。

 さすがに気になるので何事かと顔を上げ何が怒ったのか把握しようと試みる。

 しかしクラスを見渡しても乱舞するクラスメイトしか目に入ってこない。

 「北本、何があった?」

 仕方がないので隣の北本に話を聞く。こいつはもちろん乱舞なんてしていない。俺と同じく本を読んでいる(読んでいる本の種類は置いておいて)。

 「席替えですって。」

 北本は端的にこの状況の理由を教えてくれた。さすが北本、本を読みながらでも周りの話を聞いている。シングルコア1スレッドの俺の脳とは違うらしい。

 というか席替えかよ。

 なるほど後期になったし、みんなまだ浮かれてるし、ついで席替えをやっちゃおうという考えですか先生。どうやらこの素晴らしい席は今日でお別れらしい。所詮俺は主人公じゃないってことか。せっかくこの席の良さを再確認していたのに。完全にフラグだった。


 「・・・」

 そうか席替えか。思えばこの席になってから結構経ったものだ。前回は白川から離れたいと思って結局離れることができなかったんだよな。

 ・・・。

 でも今の席かなり気に入ってるんだよな。さっきも言ったように最後尾という立地が最高だし、当初思っていたよりも隣人も悪くない。

 懸念点だった白川だが、慣れれば白川に集まる人たちの声も気にならなくなった。なによりいざ白川が前の席にいると授業中その長い黒髪を眺めることができた。これまでは何も言っていなかったがこれはなかなかに良いものだった。


 しかし先生が席替えをすると言ったのならそれを受け入れるしかない。

 もしかしたらこんな自由は最後かもしれないと噛み締めながら席を決めるくじが回ってくるまで漫画を楽しむことにした。


 ・・・。

 ・・。

 ・。 

 席が決まった。

 俺の席は窓側列の後ろから3番目。つまり今の席から左斜め前に少し移動となった。

 残念ながらやはり俺に主人公属性はなかったようで最後尾を再び獲得することは叶わなかった。


 俺よりひとつ前にくじを引いた白川は元俺がいた場所、つまりひとつ後ろに移動した。つまり俺と白川は隣人ではなくなった。正直白川と離れてしまったのはなんだか寂しい。もう黒板を見るついでにそのきれいな御髪を見ることもできないと思うと授業を聞く気もなくなるかもしれない。

 そして北本はというとなんと席の移動はなかった。

 どうやら真の主人公は北本だったらしい。ちゃっかり白川とも隣同士になってやがるし。羨ましい限りである。というか君たちみんな移動距離少なくね?いや、俺もか。


 「おお、斉藤か。よろしく。」

 そんなどうでもいいことを考えながら机を移動させていると、新しいお隣さんに声をかけられる。

おお、という部分になんとなく含みがあるように感じたのは俺の気のせいだろうか。

 「ああ」

 新たな隣人を横目で観察する。すらっとした見た目だが、よく見るとうっすら化粧をしているようだ。そしてそろそろ寒くなってきたというのに他の人より短く見えるスカート。俺の知っているアニメや漫画で出てくるような感じではないがきっと現実のギャルというのはこういうものなんだろう。

 名前は確か・・・。

 「よろしくなべちゃん~」

 「ほいよー」

 そうそう田辺だ。

 メイド服製作のときに絡まれた記憶があったからなんとなく覚えていた。一応全員の名前は把握したはずなのだが俺の脳はそれらの知識を使わないものと判断されたらしく1週間足らずで忘却されたようだ。恐るべしエビングハウス。

 「おお、なべじゃん!」

 「よろ〜」

 なべちゃんは周りの女子にたくさん声をかけられている。なかなか人望は厚いらしい。確かにメイド服を作っているときもまわりの人と気さくに話していた。なんとなく白川よりも同性受けしそうな雰囲気をしている。

 ぱっと見さばさばしてそうな感じを受けるが実際は違うのだろう。まぁ俺にはさばさばしてくれて構わないんだけど。



 そういえば後ろの席は誰だったっけ。

 悟れられないようにちらっと後ろを振り向く。

 そこにはこの学校で最も量産型と言っても良いような何の変哲もないメガネ女子がいた。

 制服を着崩しているわけでもなければ特徴的な髪型でもない。ブスでもなければめちゃくちゃかわいいわけでもない。痩せてもなければ太ってもないし、貧乳でもなければ巨乳でもない。おそらく勉強はそこそこできて運動はそこそこできないのだろう。

 きっとこっちから話しかけなければ一生話すことも関わることもない俺とはねじれの位置にいる女子だろう。メイド服の時に一度は話しているだろうが名前も思い出せない。

 ・・・まぁそれならそれで結構である。変に絡んでくるやつや、男子が後ろに来ることに比べたら全然いい。むしろ御の字である。


 担任による話が始まった。

 俺はそれを確認してさっきしまった漫画を取り出した。

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