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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第8章 間違う季節の過ごし方
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128. 胸の大きい、いい女




 「・・・私のせいでクラスのみなさんに申し訳ないことをしてしまいましたね」


 「え」

 耳を疑った。


 俺は今回の一件の原因を知っている。

 言ってしまえば女子たちの嫉妬のせいで白川は負う必要のない負担を多大に負った結果過労で倒れたのだ。

 その場に居合わせていないばかりか、なんの関係もない俺でも気がついたんだ、このことに当事者の白川が気付かないわけがない。間違いなく白川は交代を頼んできた女子たちの悪意に気がついている。そしてその原因についてもおおよそ見当はついているだろう。

 これのどこに白川が負い目を感じる部分があるだろうか。

 まさかわからず言っているのだろうか。いや、白川に限ってそんなことはありえない。

 ・・・わかって言っているのだろうか。こいつは本気で言っているのだろうか?


 「お前は、お前は何も悪くないだろ!」

 白川が驚く。

 しまった。思わず少し大きい声を出してしまった。

 「斉藤くん・・・」

 「すまん。でも、この件でお前が負い目を感じる必要は一切ないだろ。」

 呆れからくる怒りにも似た感情から自然と語気が強くなっていることが自分でもわかった。

 「でも・・・」

 でも私のせいで他の女子の気分を害してしまったとでも言いたげである。


 「いや、お前は決して間違っていない。」

 俺は改めて白川に非はないことを主張する。

 「・・・」

 「・・・」

 保健室に沈黙が訪れる。

 しかしその間、俺は白川から目線を外さずに、じっと白川の目を見つめた。





 「私は・・・」

 白川がゆっくりと、そして静かに口を開く。



 「私は、間違っていなかったでしょうか?」


 「ああ、何も間違っていなかった」


 「私は頑張っていたでしょうか?」


 「ああ、お前は誰よりも頑張ってた。」



 「私は・・・」


 絞り出すような声で話す。



 「私は・・・私の頑張りは無駄じゃなかったですか・・・?」


 涙ぐむ白川。俺は目を見ながら大きな声で答える。



 「なにひとつ無駄じゃなかった。俺が保証する。」




 白川が涙を拭いながら笑顔でこちらを向く。




 「なら、良かったです」



 久しく見ていなかった白川のきれいな笑顔を窓から入る夕日が眩しく照らしていた。








 「じゃあそろそろ・・・」

 再びスマホを取り出し時間を確認する。

 もう十分白川も復活できただろう。白川の顔を見ていたら今更恥ずかしくなってきたのでこの空間からの脱出を提案する。

 「・・・」

 「?」

 しかし白川は何かを言いたそうにもじもじしている。

 「どうした?」

 「もう少し・・・」

 「もう少し?」

 なんとも歯切れが悪い。


 「もう少し・・・ふたりでいたいです・・・」


 ・・・え???


 「え?ど、どういうこと?」

 思わず聞き返す。

 「・・・」

 しかし真っ赤になった白川は何も話さない。

 「え」

 どうしたもんかと思っていたら白川が急に布団をめくって俺の手を掴んできた。


 「え?え??」


 さっきまで寝ていたせいで少し崩れたメイド服から見える白川のふくよかな胸元が目に飛び込んできたのと、めくった勢いでこちらに白川の匂いが風に乗ってきたのと、突然手を掴まれた衝撃と、その他もういろんなことで何も考えられなくなる。

 おいおいどうした?


 「斉藤くんが私の頑張りを認めてくれるなら、その・・・ごっ、ご褒美がほしいです!」

 「え?ご、ご褒美?」

 さっきからえ?しか言えない。五感を通して入ってくる情報がすべて俺から冷静さを奪っていく。なんだこの状況。どうしちゃったんだ白川。


 「・・・・・・頭」

 「・・・頭?」

 オウム返ししかできない俺にむっとする白川。どうすりゃええっちゅうねん。

 「頭、撫でてください」

 「え、ちょっと・・・」

 戸惑う俺に有無を言わさず白川は俺の手を引っぱり自分の頭に持っていく。

 「・・・」

 なにかよくわからないが、とりあえず心頭滅却して白川の頭を撫でる。

 昔はよく妹を撫でてやったが、まさか同級生にすることになるとは思わなかった。

 「こ、これでいいの?」

 今の白川はどういう心境なのだろうか、残念ながら俺には皆目見当がつかなかった。

 「・・・」

 白川は何も言わなくなった。しかし顔を赤くしながらも俺の手は離そうとしない。

 「わかったわかった。」

 俺は仕方なく何も喋らず白川の頭を撫でてやった。

 こういうのってラブコメアニメの演出じゃないの?


 

 

 「白川、そろそろ行かないと」

 時計の針は7時を回っていた。そろそろ文化祭の最後のイベントがグラウンドで行われる。

 「・・・」


 白川は残念そうに俺の手を見つめる。本気でこいつ急にどうしちゃったんだ?

 「立てるか?」

 「え、ええ」

 白川は服を手で整えながらベッドから降りる。



 「白川」

 保健室のドアの前で改めて白川の名前を呼ぶ。

 俺は最後にこれだけは言いたかった。

 

 「・・・頼むから、もう、二度とこんな無理するなよ」

 今日心配した分だけ、短く、しかし強く白川を叱った。


 「・・・ごめんなさい。」

 右下で白川が小さな声で謝る。

 「よしじゃあ行くぞ。」

 最後に改めて白川の頭を撫でる。


 「はいっ!」

 俺達は文化祭最後の強制イベント、キャンプファイヤーが行われるグラウンドに向かうことにした。




 ところで保健室の先生はどこに行っちゃったんですかね・・・?

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