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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第8章 間違う季節の過ごし方
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127. ふ た り き り の ほ け ん し つ



 「さて・・・」

 委員長からの『こちらは心配しないで白川さんのことを見ててあげて』というメッセージが表示されたスマホをしまいながら白川のいる保健室に向かう。

 「・・・」

 保健室に到着する。

 まぁ委員長からのメッセージがなくても少し様子を見に来る予定だったのだが、ちょうどいい大義名分を得たので堂々とドアを開けることができる。

 ほんとだよ。別に緊張とかしてないよ。




 保健室の先生はまだ帰ってきていなかった。なにやってんだあのおばさんは。まぁいてもなにかしてもらうことがあるわけではないし別にいいのだが。


 白川の寝ているベッドの周りのカーテンみたいな布を開く。

 ・・・。

 まだ寝ているようだ。

 音を出さないよう注意しながら白川のベッドの横の椅子に座り、持ってきたラノベを取り出す。

 ちらりと白川の顔を見る。穏やかな表情で寝息を立てている。そういえばこいつのこんな穏やかな顔しばらく見なかったな。

 思えばここ数週間白川はずっと頑張っていた。そりゃ疲れがたまるのも当然だ。

 「悪い。また白川を頼りすぎてしまったらしい。」

 小さくつぶやく。

 もちろん白川にこの謝罪は届いていない。


 寝ている白川をじっと見ているわけにもいかないので、虎の子のラノベを取り出す。思わぬ形でラノベが活躍することになった。

 ラノベを読むために目線を下にやる。

 保健室でしか見ないリノリウムの床のせいか、文化祭の喧騒があまり聞こえてこないせいか、ここだけ他の世界と隔絶されているような錯覚に陥る。

 すう、すう、と白川の寝息だけが聞こえる。

 外の熱気と対照的なそのゆったりとしたテンポが今文化祭の真っ最中であるということを忘れさせる。


 そう言えばこの心の静かさ、穏やかさは文化祭の準備が始まってからすっかり無縁だったような気がする。

 やっぱり俺にはどちらかというとこういう時間のほうが性に合っているようだ。

 静かに本のページをめくる。

 保健室という孤島で2人だけの時間がゆっくりと、ゆっくりと流れていた。

 

 「・・・」

 三度白川の顔を伺う。

 なんとなく、この時間がずっと続いてくれたら嬉しいと自然に思えた。




 「んっ・・・」

 「起きたか。」

 ラノベを閉じる。

 「斉藤くん・・・?」

 寝ぼけている白川を横目にスマホで時間を見る。

 白川が目覚めるのを待っていたら文化祭ももうクライマックスである夕方になっていたようだ。


 「・・・私はどうして寝ているんでしょうか。」

 「倒れたんだ。昼に。教室で。」

 「・・・・・・・・・え!?」

 急に起き上がろうとする白川。

 「待て待て。そんな急に起き上がるな。」

 慌てて立ち上がり白川を止める。たまにドラマとかで見るやつをまさか自分がする日が来るとは思わなかった。


 「・・・って斉藤くんは何をやってるんですか!」

 再び起き上がろうとする。

 「何って、お前が起きるのを待ってたんだよ。」

 「待っていたって、今文化祭中ですよ!?」

 「まぁな。でもどうせやることないし。それにお前の寝息を聞きながら本を読むのも案外悪くなかったぞ。」

 「へ?え、え?」

 実際本当に暇だったし、静かな空間でラノベを読めたのでむしろ良かったとさえ思っている。

 それに何より目が覚めたら保健室にひとりってのはいくら何でも寂しいだろう。


 「ま、待ってください!もしかして倒れた私をここまで連れてきてくださったのは・・・」

 「まぁ、俺だな。」

 そう答えながら俺は静かに背中を掻く。別に先程の背中の感触を思い出しているわけではない。

 「・・・///」

 声にならない声を上げる白川。なんだかこの文化祭は白川の赤面をやたらに見た気がする。

 「なんかもう元気そうだな。」

 こちらも少し恥ずかしくなる。

 「え?・・・あ、あぁ、そうですね。もう大丈夫そうです。」

 まぁそれはよかった。眠ってすっきりできたようだ。


 「ところで・・・」

 「ん?」

 「ところでクラスの方は・・・」

 人心地付いて余裕が出てきたのだろうか、白川はそんなことを聞いてくる。

 「あぁ・・・それは大丈夫だ。」

 白川が倒れてからのことを手短に話す。といっても俺が女子に啖呵を切ったことは言わずに委員長が色々仕切ってくれていることだけを話した。


 「・・・」

 最後に委員長からの例の『こちらは心配しないで白川さんのことを見ててあげて』というメッセージを表示した俺のスマホ画面を白川に見せる。

 「だから心配しなくて大丈夫だ」

 「・・・そうですか」

 白川は安心したような、しかし悲しそうな、なんとも微妙な表情をしてまま少し顔を伏せた。









 「・・・私のせいでクラスのみなさんに申し訳ないことをしてしまいましたね」



 「え」



 俺は本気で耳を疑った。

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