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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第8章 間違う季節の過ごし方
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126. 余裕のない人ほど他人に構う 弱い人ほど他人を傷つける



 「・・・・・・。」

 委員長は考え込む。

 俺はただじっと委員長の言葉を待った。


 「本当はこれは女子だけの問題だから。だからさいとーくんには言わないでおこうということになってたんだけど、こうなってはそんなことも言ってられないよね」

 「ああ、できれば聞かせてほしい」

 「さいとーくんの言う通り、今日の午前に白川さんのシフトはなかった。だけど実際は午前から白川さんはメイドをやっていた。理由は本来その時間を担当していた人が白川さんに代わってもらうよう頼んだからなの。」

 予想通りの話が出てきた。黙って話の続きを促す。

 「用事ができて代わってもらうこと自体は仕方ない場合もあるし問題はなかった。だけど問題はその回数。白川さんは昨日と今日合わせて5回以上誰かの代わりにホールに立っていた。」

 悲しいことにあまりにも現実は俺の予想通りらしい。

 「なんでその女子はそんなことをした?」

 そう尋ねるがその理由もなんとなくわかっている。

 「理由は・・・。理由は、多分嫉妬ね・・・。」

 やはり、か。これがこの事件のすべての原因であり、この問題のすべての本質であろう。


 この文化祭で白川が恨みを買うならどんな理由があるかを考えた。

 なんせあの白川だ。自身の行動で人から恨みを買うとはとても考えられない。

 しかしこの文化祭に限ってだけひとつ女子から恨みを買う可能性があるような事件があった。


 「白川目当ての客がたくさん来たからか。」

 委員長は静かにうなずく。

 俺は昨日異様な光景を見ていた。

 うちのクラスに学校中の男が大集合していたあの光景だ。

 「白川さんは何も悪いことをしていない。それは間違いないんだけど・・・正直他の子の気持ちもわかる気がするの。白川さん目当てのお客さんは彼女が応対するのを期待してるから同じ時間帯の他の子が接客すると露骨にがっかりするの。それに白川さんのいる時間帯だけはクラスは大盛況なのに、白川さんがいないと途端にお客さんが来なくなる。」

 その場面を想像した時の他の女子の気持ちはいい気分ではないだろう。明らかに自分たちはハズレ扱いをされている。

 「それで次第に白川さんのシフトを増やそうという話が出てきた。みんなはお客さんを呼ぶためと言ってたけど、実際それは当てこすりだと思う。」

 今回の事件の概要はだいたいわかった。

 「それでさっきも人数が少なかったのか。」

 「・・・うん。」

 シフトを代われと言われた時の白川の言動は容易に想像できる。もしそこで断ろうもんならお高く止まってると思われると考えるに違いない。


 あいつならまず間違いなくこう考える。

 『私が頑張るだけで解決する問題ならそれは"問題"ではない』と。


 「今考えれば白川さんがどれだけ無理してるか気づくタイミングはたくさんあったのに・・・」

 委員長は自責の念を感じているようだ。俺だって同じ気持ちである。当事者ではないとはいえ気づいてやれるタイミングはいくらでもあった。俺が気づいてやらなきゃあいつはどこまでも自分を犠牲にするのに。俺はもうあいつにそんな無理はさせないと公園で誓ったのに。

 「これからすべきは身代わりを頼んだ女子に白川の穴を埋めさせることだ。」

 しかし今それを後悔しても仕方がない。まずこのことを後悔し反省すべきは白川に肩代わりさせた女子たちだ。

 「そ、そうだね。」

 「とりあえず女子全員にクラスに集まるように号令かけろ。」

 「わ、わかった」

 委員長はスマホを操作しながらクラスに戻った。


 俺もクラスに戻ろう。雑務係としての最後の仕事だ。

 「ゆっくり休んでろ」

 寝ている白川にそう言い、俺もクラスへと向かった。




 「全員揃ったか」

 「うん」

 しばらくしてクラスの女子が集合した。ことがことなので男子は俺しかいない。


 「ちょっと、なんで斉藤がいるのよ。」

 「雑務係だからだ。」

 「なによそれ。」

 「黙れ」

 「なっ・・・」

 一時的に営業を止めているためくだらない会話をしている暇はない。

 「白川が倒れたんだ。」

 「え?倒れた?」

 女子たちの目が変わる。

 どうやら委員長は集合としか連絡しなかったらしい。


 「お前らの誰かが白川に仕事を押し付けたせいであいつは過労で倒れたんだ。」

 心当たりのありそうなやつらがちらほらいる。

 「なんで私たちのせいって決めつけるのよ。」

 誰が言ったかはわからない。それが本心なのかもわからない。しかし確かにそんな声が聞こえた。

 「・・・」

 途端に悲しみと怒りがこみ上げてくる。

 こいつら自分たちがしたことの重大さがわかっていないようだ。

 白川は自分がどれだけ頑張ったかを誇示するような行為を好まないだろう。

 だがこいつらは白川のことを少し知ったほうが良い。つまらない感情であいつの頑張りが無碍にされるのはいくらなんでも癪だ。

 心の中で白川に謝りながら口を開いた。


 「これを言うことはあいつの本意じゃないかもしれないが、あいつがどれだけ頑張ったか知ってるか?

  頼まれる前からメイド服の作り方を調べ、初心者でも作りやすそうなデザインを考え、材料を用意して、講師役をして、おまけに足りない分を自分の時間を使って作ったんだぞ。なんならメニュー決めも内装のデザインもシフト決めもあいつが担当してた。」


  お前らが文化祭を楽しめるためならあいつはいくらでも努力する。他人の喜ぶ姿が1番の喜びだと本気で思っている。そのための努力は努力とも思っていない。あいつはそういうやつなんだ。そんな女なんだ。


 それなのにお前らはなんだ。くだらん嫉妬で白川の努力を無駄にして。お前らがつまらなそうな顔でシフトを代わるよう頼んできた時、あいつはどんな気持ちだったか想像したか?

  お前らの楽しむ姿を見るために誰に誇ることなく努力してきたのに、その相手がつまらなそうに自分に仕事を押し付けてくるんだぞ。その時のあいつの気持ちを考えたことあんのかよ」


 声を荒らげないように心がけながらも、あいつの気持ちを考えるとつい熱くなってしまう。こんな結末あいつが報われないにも程がある。


 「・・・」

 自覚のある奴らは顔を伏せる。ようやく自分たちがしたことを愚かさに気付いたのか、それともクラスの日陰者が突然偉そうに喋りだしたことに苛立っているのかはわからない。

 「あいつはどれだけの感情を抑えて、我慢して、押し殺して、笑顔でシフトを変わることを受け入れたか。なぁ、わかるか?」



 「・・・ごめんなさい」

 またしても誰が言ったかはわからなかった。

 だが、もう伝えるべきことは伝わったと判断できた。

 俺が偉そうに喋る時間は終わりだ。委員長にアイコンタクトする。


 「はい!みんな、すぐに準備して!」

 委員長はパンパンと手を叩いてみなを促す。

 これからどうすべきか俺より頭の良い奴らが集まっているんだ、わざわざ言うまでもないだろう。

 「2分後に営業再開!いいね?」


 俺は邪魔にならぬようクラスから退室した。

 まったく、こんなことするキャラじゃねえのによ。

 元気になったらただじゃおかないからな白川。

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