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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第1章 変わらない世界の改変
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12. そして嵐との邂逅。



 俺も学校に来たくないと毎日思っているけど、なんてとても言える雰囲気ではない。

 とにかく話を聞かなければにっちもさっちも行かない。


 「どうしてそう思う。」

 やおら彼女の向かいに座る。いつもは白川が座る席だ。


 「おんなじクラスじゃないよね?」

 「多分。俺は3組だけど。」

 自信がなかったので自分のクラスを言って相手に判断させた。

 「よかった。わたし4組。」

 違かったようだ。しかしわざわざクラスを確認してくるということは泣いている理由はクラス関係か。


 少し落ち着いてきた彼女は事の顛末を話し出す。


 「わたし、中学の友達と全員離れちゃったんだ。だから新しいクラスでみんなと仲良くなろうといっぱい話しかけたの。それで入学してすぐはすっごく楽しかった。毎日いろんな人と話して、毎日みんなでごはんも食べて、毎日の学校が楽しかった。」


 一呼吸置いて話は続く。


 「でもそんな気持ちでいられたのも金曜日までだった。クラスの友達におすすめされてSNSを始めたの。最初はよく話す友達だけをフォローして、みんなでおしゃべりして盛り上がってたのね。だけど、そんなある時、画面にはフォローおすすめユーザーが何人か表示されているのを見つけてしまったの。どういう仕組かわからないけど、ちゃんと私が知っている人らしきアカウントがされてた。わたしは何も考えずにその人が話している内容を見ちゃったの。今思うとそんな事やめとけば良かったって後悔してる。そこに書かれていたのはわたしの悪口だった。そのアカウントの主だろう人は一度だけ一緒にご飯を食べたくらいなんだけど、どうやらわたしがみんなと仲良くなろうとしているのが気に入らなかったみたい。八方美人とか調子乗ってるとかうざいとか書かれてた。」



 これまで静かに話していた彼女の語気が強くなる。



 「そのアカウントの子は学校では何も言ってこない。もちろんそうだよね。本人に言ってくる人ならネットに書いたりしないし。でも、1回疑心暗鬼になると他の人も実は私のことが嫌いなんじゃないかと考えちゃうの!まだわたしが見てないだけで、たまたまネットには書かないだけで、本当は内心私のことを嫌っているんじゃないかって。一度そう考え出すとクラスの人みんなが怖くなっちゃってね・・・」


 「先週は仲良くしてくれていた人も本心はわたしを鬱陶しく思ってたんじゃないかと思うともう話しかけることすら怖くてできなくなっちゃった。なのにSNSはつい気になっちゃって。見てはいけないと思えば思うほど見たくなって図書室で一人で見てた。わたしほんとにバカだよね。なにやってるんだろ。」



 彼女は力なく自嘲した。







 自分とはあまりにも違う感性だ、というのが正直な感想だった。


 俺はみんなと仲良くなりたいなんて人生で一度も思ったことはないし、誰かに嫌われている可能性に怯えることも経験したことがない。



 さてどうしたもんか。あまりに違う世界を持つ人に慰められても空々しく聞こえて逆効果だろう。困ったなぁ。

 だが、ああそうか頑張れ、と言って帰るわけにもいかない。

 考えるしかなさそうだ。



 まず、ここまで感性が違うなら自分との相違点を考えるのが有効だろう。

 なぜ、目の前の女の子は泣いているのか。自分を嫌っているらしい人がいるかもしれない教室が怖いからだ。


 つまり、嫌われることへの考え方が今回の件の根本的問題である。


 嫌われることに過剰な拒否があることは話を聞いているときもなんとなく読み取れた。


 「みんなと仲良くする」とか「みんなでご飯を食べる」とかに現れる『みんな』とは誰だろうか。彼女の言う『みんな』は、漠然と大勢を指しているのではなく『誰一人漏れのない全員』なのではないか。


 クラス『みんな』と仲良くしたいという気持ちの裏側には、自己へ向けられる嫌悪感の過度な拒絶があるのかもしれない。


 素直に友達100人を目指しているのかもしれない。

 しかし、ひねくれた俺から考えると、『みんな』という言葉の多用は『個』への恐怖や『異分子』への拒絶があると思えてならない。


 さて、どう伝えれば角が立たないか。ここでまた泣かれたらたまったもんではない。しかし、俺には優しさと表現力が欠如しているせいで、良い言い回しが思いつかない。



・・・。

仕方ない。ストレートに言おう。俺しか慰めてくれる人がいなかった自分の不運を嘆いてくれ。



 「…自分以外の全員に好かれるなんでこと、不可能だと思うぞ。」

 「やっぱり、そうだよね。いいの、自分でもわかってるから。」

 なんだ、わかってるのか。じゃあもう教室戻ってもいいかな。


 「君は嫌われることに慣れてるの?」

 「いや、慣れていない。悪意を持たれるほど他人と関わらないし。」

 「さみしくないの?」

 「別に。人が寂しさを覚えるときには比較対象が必要なんだ。クラスでぼっちが寂しそうに見えるのは他の人々がグループをなしているからだし、独身が寂しそうに思われているのは同世代の既婚者がいるからだ。でも案外本人たちはそう思ってなかったりする。本人たちが他者と比べていない、仮に比べてみたとしても、現状に不満がなければ寂しさも孤独感もない。」


 「でも他の人には色々思われるじゃん。」

 「なにか言ってくるわけじゃないし、仮にお前みたいにネットで書かれていても、書いた人と生涯をともにするわけでもないしな。気にしなければいい。」

 この子は驚いたような顔でこちらを見ている。なんとなく気恥ずかしい。


 「ま、まあお前も気にするな。唯一の親友が悪口を書いてたわけでもないんだし。不確かな悪意より確かな好意に向き合ったほうが幾分建設的だと思うぞ。俺と違ってお前には友達がいるんだから。」


 彼女は少し考えるような素振りを見せる。

 「きみはわたしに好意を向けてくれる?」

 いたずらっ子のような目で聞いてきた。なんなんだ。


 「悪意を持っているわけじゃないが好意はない。第一そこは俺の席だ。お前がこんなところで泣いているからその席でまったりできなかったじゃないか。」


 「うわ、ひっどーい。」

 ぷんぷん怒っている。もう元気になったのなら早く教室に帰ってほしいのだが。



 「でも、きみのおかげで元気になれた。ありがと。」

 「俺は何もやってないが。」

 「ううん。話を聞いてくれて嬉しかった。それに、きみの話は聞いていてとっても楽しかった。だってわたしとはぜんぜん違う考え方なんだもん。」


 そんなもんかねぇ。人と話したことがないからわかんねえ。


 「ところで名前をまだ聞いてなかったね。わたしは佐々木南。きみは?」

 「斉藤。」

 「下の名前は?」

 「正満。」

 「じゃあまさくんだね。」

 「へ?」

 「あだ名。わたしがまさくんの初めての友達になってあげる。」



 な、なんだこの女。さっきまで泣いていたと思ったら、急にわけのわからないことを言い出した。


 「なにを訳のわからないことを。」

 「えー、だってわたしはまさくんのおかげで元気になれたんだよ。もう友達じゃん。…それともわたしが友達じゃ、イヤ?」


 上目遣いでこっちを見るな。てかなにこの展開。ハニートラップとかじゃないよね。俺金ないよ。



 「い、いやあ、嫌ってことはないが・・・」

 「じゃあ決まり。これからよろしくね。」

 「はあ。」

 なんだかよくわからない間に人生初の友達ができたらしい。


 「そうそう、まさくんは部活どうしたの?もうなにか入った?わたし色々あったからまだ部活入ってなくて。」

 えへへと笑う。そういや今日が部活体験最終日だったな。だから泣くほど思いつめたのか。



 しかしここで素直に返したらどうなるのか。

 良いパターンは単に興味本位に聞いただけという場合。


 そして一番悪いパターンは、まだ決めてないから俺の部活に入るとか言い出すパターンだ。それだけは避けたい。

 

 ここは嘘をつく一手しかない。




 「…野球部。」

 「へえ、いがーい。」


 それは意外だろう。なんせ俺はバットを振ったこともない。


 「でもそれなら同じ部活には入れないなぁ。ざんねん。」

 ・・・。あぶねえ。


 「ま、まあ仕方ない。お前もいい部活見つけられたらいいな。じゃあもうクラス戻るわ。」




 えーーという声を無視して図書室を出る。



 まあ、クラスも違うしもう会うことはないから大丈夫だろう。そう自分に言い聞かせた。



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