125. 兎角に人の世は住みにくい。
委員長のメッセージが届いたのとほぼ同時に北本からも至急クラスに来て欲しいというメッセージがきていた。とにかく急がないといけないらしい。スマホと串をポケットに突っ込んで俺は一目散に駆けた。
人垣を分け入って走ってクラスに向かう。
肩で息をしながらクラスに到着する。外は騒ぎになっていない。どうやらまだ中で何が起こったか客には知られていないようだ。
ドアを勢いよく開ける。当然周りの注目の目を集めることになったが今はそんなことを気にしている場合ではない。
クラスを見渡す。委員長はいない。やはりバックヤードか。
バックヤードに入る。不幸にもちょうど男子が出払っているタイミングだったようだ。
「どうした。」
呼吸を落ち着かせようとしながら、しかし焦りの混じった声で委員長に事のあらましを尋ねる。
「白川さんがバックヤードに入ってからしばらく出てこなくて見に行ったら中で・・・」
委員長も焦っているようだ。
「北本、お前はなんか知ってるか?」
「いえ・・・・・・すみません」
意味深な間があったように思えた。きっと何か心当たりがあるのだろう。
「そうか」
他の女子にも目配せするが、みな何も知らないようだ。
だが彼女らも北本と同様に何かを隠しているような、後ろめたい気持ちがあるような目をしていた。
やはり・・・俺の推察はおおよそ当たっているのだろう。
そして白川がスケープゴートにされている理由も多分俺が今考えているとおり・・・。
「とにかく・・・」
北本が考え込む俺の肩を叩く。
「ああ。とりあえず保健室に連れていく。」
「ひとりで大丈夫?」
委員長が心配してくれる。
「ああ、これ以上人が抜けたらまずいだろ?」
俺は客がわんさか並んでいる方角を一瞥する。
「・・・」
しかし、委員長含め多くの女子はこの発言に微妙な表情を示した。
ああ、そうか。そうだよな。一番近くにいるお前らがそりゃ最初に気づくよな。
「じゃあ、よろしくお願いね・・・」
「ああ」
白川をおぶる。
今ここで白川をおぶった俺が脱兎のごとく学校を走り抜けて行ったらさっきとは比にならないほどの注目を浴びることになるだろうが一刻を争う事態なのでやむをえまい。
順番を待っている客の横をすり抜ける。当然さっき以上の注目を浴びることになるが仕方ない。
俺はちょうど昨日しおりのおかげで位置を覚えた保健室に急いで向かった。
バックヤードを出るとき、他の女子に何か声をかけようかと思ったが、今の彼女らにかける適切な言葉が俺にはわからなかった。
「どうですか?」
「今ベッドに寝かせたからとりあえずは大丈夫よ。」
「原因は・・・」
「多分過労と寝不足による貧血ね。ぐっすり眠ればすぐよくなるわよ」
「そうですか・・・」
俺は一安心して保健室の椅子に腰を下ろす。
「きっと頑張りすぎちゃったのね。文化祭前後で毎年ひとりはこういう子がいるのよね。」
「・・・そうですか」
相槌を打ちながら初めて入った保健室を見回す。
グラウンドからと校舎から少し喧噪は聞こえるものの、その音量は小さく、まるでこの部屋だけ学校から取り残されているような不思議な感覚に陥った。
「連れてきてくれてありがとうね。もう大丈夫よ。」
「もう少しここにいてもいいですか?今からクラスの女子が来るようなので。」
携帯には委員長からそういった旨のメッセージが入っていた。
「いいわよ。じゃあもし何かあったらとなりの職員室にきてくれる?」
わかりましたと返事をして昼飯を買いに行った先生を見送った。今このタイミングでいなくなるか?と思ったがまぁ白川は寝てるだけだしいる必要もないのか。
「白川さんは?」
少しして委員長が保健室に入ってくる。
「寝不足と過労。今寝てる。」
簡潔に現状を説明してベッドを指差す。
委員長はカーテンをちらっと開けてその中をうかがう。
その背後から俺もちらりと見る。
たしかにぐっすりと眠っているようだ。よほど疲れていたのだろう。そりゃそうだよな、他の人の倍働けば。
確認した俺達は適当な椅子に腰掛ける。
「よかった・・・。ありがとね、さいとーくん。」
委員長に礼を言われる。
「ああ・・・」
だが俺は委員長に聞きたいことがありすぎて生返事しかできなかった。
「なぁ委員長。」
俺は立証したくない自分の予想を確認するために、聞きたくない事実に向き合うために単刀直入に委員長に問いかける。
「なんで白川はあんなに働いていたんだ?」




