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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第8章 間違う季節の過ごし方
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122. 世界に対する叛逆宣言



 遠くでステージの片付けが始まる。どうやら野外ステージの今日のイベントは終わったようだ。

 先輩役員に、それは違うあれは違うと言われながらも後輩役員がせっせと片付けを行っていた。

 その姿をぼーっと眺めながら再び無意味な思いにふける。



 現状維持というものが心地の良い堕落というのに気付いたのは最近のことだ。


 俺がこれまでのように文化祭なんて取るに足らない無駄なことだと言って参加を拒んでいたとしたら、それは現状維持だろうか。


 ある意味では究極の現状維持と言えよう。

 なにか考え方に変化を及ぼすようなことが起こることもなければ自分のスキルが向上することもない。俺の補集合的空間で勝手に文化祭が行われているだけで俺の世界では何も起こらない。


 だが残念ながらこれは変わらないという堕落なのである。

 寝て覚めるだけで1日が経つ。瞬きをするだけで何ミリ秒か世界は動いている。

 世界の総体はゆっくりと、しかし常にダイナミックに動き続けている。


 それらを構成するものたちは様々な種類がある。

 自ら動くもの。周りにつられてなんとなく動くもの。他の要素に引っ張られて動くもの。

 そういった集合の中での滞留は果たして現状維持と言えるのだろうか。

 自身のまわりの物質を道連れに停滞を続けることで、世界は動いていないと自分に言い聞かせているガキなのではないだろうか。



 

 なぜ人は群れるのだろうか。

 なぜ人は他人からの賞賛を喜ぶのだろうか。

 なぜ人はやりがいを求め達成感を求めるのだろうか。


 

 今の俺が出せる答えはひとつ。誰もが皆、世界における自分の動きに、そして立ち位置に自信がないからである。


 ある程度成長し、動けることに気づき始めた子供は、まず何も考えず無鉄砲に動き回る。

 そしてさらに成長すると、ふと自分の進むべき方向、向かうべき目標の確証が欲しくなる。まるで強化学習のAIのように間違い続けてそれについての情報がある程度たまったら次は間違えないように動こうとする。


 世界という大局において絶対的な確証があるのかはわからない。というか多分ない。

 しかし誰もが羅針盤と地図くらいは欲しいと思い始める。


 だが悲しいことに世界にはそんな便利なものはなかった。

 あるのはせいぜい自分の近辺の状況を確認する目と周りにいる他人という存在くらいだ。

 けれども間違えたくない人々はそんなものでも頼るしかない。

 大局の動きはわからないが、自分の近傍の局所的な動きにはまずは乗ってみようと考える。そうせざるをえない。

 これが人が群れる理由である。


 そしてさらなる確証が欲しいがために他の人に君の進路は正しいという賛同を求めだす。

 そのようにして積み上げられた確証の上に立つ達成感を一度知ると、それは至上の自信となるのだろう。


 

 なるほどこのように考えると青春とはなんだろうかという問いにも暫定的な答えが出せそうだ。



 俺はふと思った。青春とは最初で最後の世界への叛逆期なのかもしれない、と。



 世界全体が常に正解の方向へ動いているなんてことは決してないが、仮にここでは世界という大河の大きな流れを『正解』と定義付するとしたら、その構成体の我々一人間は全体の正解の流れに否が応でも流される。

 流されないという選択肢を取ることもできるが、その選択はことによっては生きていけなくなるか捕まるかしてしまう。本流とあまりにも違う方向に流れようとすることは人間社会では許されていない。


 そう、社会に出ては本流からずれるにも、『許容されるずれ』の範囲内に収まらないといけない。

 そしてその『許容されるずれ』は年齢が上がるにしたがってどんどん狭まっていく。

 人間社会は精神的全体主義の上に成り立っているのだ。


 

 だが学生時代はどうだろうか。

 そういった社会のお約束、行動選択の制限、体力の限界、持ちうる自由な時間、そして『許容されるずれ』などなど、あらゆる面で社会に属する大人より自由に動ける。

 若さという特権で大局的な本流を司る神様から叛逆をお目こぼしされているのだ。


 若年のうちに動き、叛逆し、間違え、反省する経験はきっと将来のフットワークを軽くし、歳を重ねるごとに狭まると"感じられる"『許容されるずれ』を広げることにつながる。

 こういった期間を終えた人がその期間を指す言葉こそがきっと青春ってやつなんだろう。


 

 気づけばあたりが静かになっている。

 スマホを取り出す。そういや何かあったら連絡するよう言っていたけどやっぱり委員長から連絡なかったな。

 時間を確認して玄関の方を見る。

 さっきまでに比べて随分人の出入りが減ったようだ。

 もう数十分もすれば文化祭1日目が終わり明日の準備が始まる。

 そろそろクラスに戻ってもいい頃合いだろう。


 花壇から立ち上がろうとするとポケットに差していた文化祭の栞が落ちる。

 「ふっ」

 表紙を見て思わず笑う。


 さて、俺の青春というものは果たして単調増加しているのだろうか。

 それはわからないが、俺に残された世界への叛逆期間はそう長くは無いだろう。

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