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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第8章 間違う季節の過ごし方
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121. 堕落論



 その後俺達はたこ焼きを食べたり、マジックショーを観覧したり、みんなで輪投げをやったり、佐々木と順のクラスの出し物である脱出ゲームをやったりと、だいたい2時間弱だろうか、楽しい時間を過ごした。

 しかしついぞ白川からの連絡は来ず、俺以外のみんなは仕事があるようで各々のクラスへと帰っていってしまった。


 「ふぅ・・・」

 俺は再びひとりになる。

 ついさっきまでもひとりでいたのに、一度孤独を忘れ、皆と過ごすことを知ってしまったせいでさっきよりも孤独が身にしみる。

 時計を確認する。あと2時間と少しでとりあえず文化祭1日目は終わるようだ。微妙に時間がある。明日はこんな風に時間が余ることに備えて本でも持ってこようかななんて考える。

 しかし今日はそういった手遊びの道具もスマホ以外ないので花壇の段差に腰掛け、グラウンドの喧噪をぼーっと眺め時間をやり過ごす。ずっと屋内にいたので外の風が清々しく感じられた。


 

 にわかに遠くから「わーーっ」と歓声が聞こえる。

 声の方向に目を凝らす。どこかのクラスがステージでダンスを披露しているようだ。

 

 スマホでニュースなんかを見ながら適当に過ごしているとそのダンスが終わったようで再び同じ方向から歓声と拍手が起こる。

 ステージ上では何人かが抱き合っている。ステージの成功を全員で喜んでいるようだ。

 それを受けてさらに歓声が上がる。

 俺は頬杖を付きながら、あれが青春というものなのだろうか、なんて思いながらその光景を見ていた。

 「・・・」

 不意に意味もなく自分の手のひらを見つめる。

 そしてまたしても時間つぶしの意味のない思考に沈んでいった。







 件の光景を見てふと思った。 


 

 なぜ人は群れるのだろうか。

 なぜ人は他人からの賞賛を喜ぶのだろうか。

 なぜ人はやりがいを求め達成感を求めるのだろうか。


 

 以前の俺ならこれらの疑問に対して答えに近づこうとするプロセスを否定していただろう。

 つまり群れることを弱さと決めつけ、他人からの賞賛を意味のない戯言としてそれを喜ぶ人々を『自分』を持っていない弱者と蔑み、やりがいや達成感に無駄というレッテルを貼って見下し続けていた。

 これらの意味を考えることは自分のこれまでの生き方を破壊しかねない行為だとどこかで本能的に気付いていたのかもしれない。だから問いを自己保身的に放棄していた。


 往々にして人は変化を嫌う。変わらなくても済むなら現状維持というこれまでの時間に裏打ちされた安全さ・頑強さにすがりたくなる。

 俺もその例外ではない。なんならその性格が他の人よりも強かった気すらする。

 未知の他人と距離を縮める。未確定の未来のために今の時間を賭す。

 そんな賭けに出るくらいなら、なにも変わらないほうがましだと本気でそう思っていた。

 

 そうして俺はずっと現状維持という名のゆるやかな堕落を肯定し続けてきた。

 

 

 


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