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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第8章 間違う季節の過ごし方
119/241

115. お前・・・そういうところだぞ



 「・・・・・・」

 さっき少しいい体験をしてそろそろ家に帰ろうとしていた俺がなぜ今白川家のリビングでひとりテレビを見ているのだろうかというとさっきこんなやりとりがあったからで・・・。


 「そろそろ僕はおいとましようかと・・・」

 「いいのよ遠慮しなくて。2人分も3人分も変わらないし。」

 「そうですよ。私が言い出したことなんですから遠慮しないでください。」

 そうは言ってもなあ・・・。そこまで施されるほど俺は何もしてないんだが。

 「なによりもう3人分買ってきちゃったし。」

 逡巡している俺に白川ママは優しい微笑みをたたえながらそんなことを言ってくる。

 「・・・じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな。」

 いろいろ考えたがそこまでされたら無理に断るほうが失礼な気がしてきた。

 「ではリビングで待っていてください!」

 なぜか妙に機嫌の良い白川にリビングまで手を引っ張られる。

 「ちょ、なんか俺も手伝うよ。」

 引っ張られながらも必死に抵抗する。

 「いいからここでテレビでも見ていてください。」

 「わ、わかった。」

 こういうときの白川は何を言ってもダメなことを俺は知っている。

 「うふふ、では少しの間待っていてくださいっ。」

 「はい・・・」



 とまぁこういうことがあって俺は始めてきた女子の家のリビングでくつろいでいるのだった。


 普段あんまり見ないようなバラエティーをなんとなく見ていたが10分で飽きてきた。そのおかげでさっきまで全く気になっていなかったキッチンの方からする調理の音に意識が向いてしまった。

 キッチンの方に聞き耳を立てる。いつもこんな風にふたりで料理を作っているのだろうか。

 調理の音に混じって白川親子の会話が聞こえてくる気がするが流石に内容まではよく聞き取れなかった。

 手持ち無沙汰にスマホを取り出す。ロック画面には母親からメールの返信が来ていた。別に俺がどこで誰と何の飯を食っていようがどうでもいいらしく短く『あんまり遅くならないように』と一文そのメールには書いてあった。あまり追及されず助かった。

 スマホをしまい、なんとなくリビングを見渡す。


 「お」

 棚の上にちょこんと置いてあった写真立てにはどこかの小学校の前で大きなランドセルを背負う可愛らしい女の子の写真が飾ってあった。

 なんとなく面影あるな、と心の中で思いながら写真を眺める。

 今から数えて10年位前の姿だろうが目元なんて今とほぼ一緒である。このときからきっと周りの同級生から頭一つ抜けていたのだろうと思わせる可愛さが確かにあった。

 ・・・周りを見渡す。

 なんかさっきよりキッチンから聞こえてくる音が少なくなった気がする。

 やばいそろそろソファに戻っておこう。

 さすがに自分の幼い頃の写真を見ながらニチャついているところを見たら寛容な白川でもぶん殴ってくるだろう。なんせ俺にはさっき前科がある。

 「おまたせしました〜」

 間一髪だった。



 

 「さぁどうぞ〜」

 ダイニングテーブルには大きなグラタンやおしゃれなサラダやパンといった我が家の食卓では絶対お目にかかれないような代物が並んでいた。

 「なんか申し訳ないです。こんな豪勢なもの頂いちゃって。」

 思わず恐縮する。ただでさえ恐縮しているのに。

 「いいのよ。斉藤くんがいるからって香織がはりきってたくさん作っちゃって。」

 「お母さん!」

 怒る白川。その珍しさに思わず笑ってしまう。

 「だからたくさん食べて。」

 「ありがとうございます。では遠慮なく。」

 グラタンを一口頬張る。

 「うわうまっ。」

 「ふふふ、良かったです。」

 「これもお前が作ったの?」

 「ええ、案外簡単なんですよ。」

 「さすがだわ。いくらでも食える。」

 「いくらでも食べちゃってください。」

 さっきまで遠慮していた俺はどこはやら、目の前のびびるほど美味い料理を勢い良く食べる。

 

 「ところでふたりはお付き合いしてるの?」

 何杯目かのグラタンを小皿によそっているとき白川ママが突如爆弾を投下してきた。

 「い、いや全くそういうことは・・・」

 「あら、そうなの?」

 「ええ、たまたま同じクラスというだけで・・・」

 まぁ実際は部活が同じというのが一番大きいのだが、部活のことを聞かれるのも面倒なので一応言わないでおいた。

 「そう、てっきりママは付き合ってるのだとばかり・・・」

 「ただのクラスメイトですよ。ほんとに。なぁ白川?」

 ここで変な誤解をされるわけにはいかない。不自然にならないよう必死に答える俺。


 「そうですね」

 白川はこっちを見ずそう言った。

 「まぁそういうことです。」

 そんなことを言いながらへへっと引きつった作り笑いを白川ママに向ける。こういう社交的な場面に不慣れなせいで自然な作り笑いができず気持ち悪い笑みになってしまった気がするが今それを後悔しても仕方ない。

 「あぁー・・・」

 「え?」

 白川と俺を交互に見た後、突然ママがなにかに納得したような声を出す。

 「いえ、なんでもないの・・・」

 「はぁ・・・?」

 よくわからない俺は再び気持ち悪い作り笑いをするしかできなかった。



 

 「ご飯ごちそうさまでした。もうびっくりするほど美味しかったです。」

 すっかり遅くなってしまったがさすがにこれ以上お邪魔するのは悪いので夕食をごちそうになった後は速やかに帰ることにした。

 「またいつでも食べに来てね。」

 ママはにこにこしながらそんな嬉しいことを言ってくれる。

 「そうですね、是非また。ってそんなこと言うのは図々しいですかね。」

 「斉藤くんならママはいつでも大歓迎よ。」

 「ははは。ありがとうございます。では今日はこれで。」

 俺はカバンを背負い白川家の玄関でお辞儀する。


 「じゃあな白川、また週明け。」

 「お気をつけて」

 「では失礼します。」

 俺は最後にもう一度お辞儀をして白川家を後にした。

 エレベーターで膨らんだ腹を撫でながら今日のことを思い出す。

 結構長い間白川のうちにいたわけだがなんだかあっという間だったように感じる。



 「・・・」

 しかし、なぜだか別れ際の白川がいつもよりそっけなく見えた気がする。


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