109. 孤独の崩壊
放課後。クラスのみんなが帰って静かさを取り戻した教室にいつもの3人が残る。
「お疲れ様でした。」
「ああ。」
「お疲れ様!といってもわたしは自分の分を作ってただけだけど・・・」
「とにかく無事遅れることなく終わってよかったじゃないか。」
「そうですそうです!みんな慣れない中頑張ってくれました!」
俺達は3人みんなそれぞれ違う達成感に浸っていた。
「ということで来週からのことだけど・・・」
「来週はメニューとか飾りとか考えないといけないよな。」
「1週間あるから多分だけどどうにかなると思う。」
「そうか。」
正直そのへんは俺には全くわからないからそう返事するしかなった。
「来週から出し物がある部活の人がいなくなるから少し大変になるかもしれないけどね。」
文化系の部活でも個別に出し物を出すところは少なからずあるみたいだ。
いない人たちと言えば一応確認して置かなければいけないことがあったのを思い出した。
「・・・ところで、テニス部のやつらの服は作らなくていいんだよな?」
聞くところによるとテニス部は大会直前らしくクラスのイベントに関わっている暇はないらしい。
他の運動部はちょくちょくクラスに来てなんとかメイド服を作り終えたようだがテニス部だけはついぞ来ることはなく、本人たちも作ることを諦めているということを聞いた。
しかしこの何気ない問いかけに白川の表情が一瞬変わったように見えた。
「ええ、まあ・・・」
白川の表情から察するになにか良からぬことを考えているようだ。
「なぁ・・・」
曰く、運動部のうち1番多くを占めるテニス部に今週末急遽練習試合が入ったらしい。
俺はほぼ確信を持っていた。
「・・・お前、今いない人の分をひとりで全部作ろうと思ってるだろ。」
「・・・」
その沈黙は答えを雄弁に語っていた。
「「・・・・・・。」」
俺と委員長も黙る。
「よくわかりましたね。」
照れ隠しのような笑顔で白川はそう言う。
しかしそうですかと言って納得するわけにはいかない。
「第一作る必要あるのか?当日そいつらが来るかも正直微妙じゃないか?」
「もし彼女らが来れることになった時に自分たちだけ服がなかったら悲しむと思います。仮に来れなかったとしてもみんなが持っているものを持っていないというのもかわいそうじゃありません?」
たしかにこういうのはクラスみんなが同じものを持っているというのが世の中的には大切に思われていそうな気がする。文化祭当日クラスの方に出るかわからない部活の人も実際メイド服は作ってたわけだし。
「まぁ俺もそう思うが・・・本人たちも作らなくていいって言ってんだろ?」
「私が同じ立場なら内心どう思っていても彼女たちと同じことを言うと思います。」
どうやら白川の中に彼女たちだけメイド服を作らないという選択肢はないらしい。俺はこうなった白川が案外頑固なことを知っている。
「でもお前、ひとりやふたり分じゃないんだろ?」
白川がなんと言おうとこいつが無茶を強いられる必然性はないのは確かだ。
「そ、そうだよ!」
「問題ありません。ここだけの話、私裁縫は得意なんです。」
「「・・・・・・・・・・・・。」」
再び黙るふたり。やはり頑固である。こうなったらもうこう言うしかない。
「いやだめだ。」
「・・・どうしてです?」
「お前はどうしてそう一人で抱え込む。」
「私が少し頑張れば解決することです。他の方の手を煩わせる必要がないならそれに越したことはありません。」
あまりにも白川らしい発言だ。
「そんなことはない。お前がひとり頑張っていることを知りながら俺は家でごろごろしてるなんて寝覚めが悪いわ。」
「どうして・・・斉藤くんには関係ないでしょう?」
その一言で俺は冷水を浴びたようにすっと冷静になった。
関係ない?
関係ないのか?
確かに白川がどれだけ苦しもうが俺の生活・俺という存在には何も関係ない・・・はずだ。
だが本当にそうか?
理屈ではそうかもしれない。
でも・・・俺はもう『関係ない』とは胸を張って言えなくなっていた。




