101. 役得
電車に揺られバスに揺られ、俺達は例のショッピングモールに着いた。まさかこんなすぐ再訪することになるとは。裁縫だけに。
「最近はどんなもの作ったの?」
「そうですね・・・」
前では女子が楽しそうに話している。それを背後からついていく俺。いつもの構図である。まぁ積極的に話しかけられても困るからこれでいいんだけど。
というか白川今も定期的になんか作ってるのか。そういえば最近白川が手芸やってるところ見てない気がする。部活に人が増えたからかな。
人が増えたと言えば順は体調大丈夫なのだろうか。出会ってからの様子からは想像できないが前期の頃はあんまり学校来てなかったらしいし少し気になる。といっても俺がなんかできるわけじゃないし、気軽に聞ける内容でもないからなぁ。そのへんは刻が上手くやってくれると信じるしかないだろう。
刻といえば他のクラスは文化祭なにをやるのだろう。どうでもいいっちゃどうでもいいが、気になるっちゃあ気になる。
他のクラスと言えば佐々木もそうか。文化祭が始まったら多分家のクラスに来るよなぁ。最近は鳴りを潜めているが、うちのクラスのみんなの印象は春の頃のあの事件が強いだろう。どんな顔されるか今から不安で仕方ない。
・・・そういえば文化祭準備期間になってから北本と会ったっけ?
「着きましたよ斉藤くん。」
よしなしことを考えていたらどうやら本日の目的地周辺に到着したらしい。看板には大きな羊が描かれている。この店のマスコットなのかな。
「なんかワクワクするね。」
「そうですね。さあ入りましょう。」
女子たちはそれなりに興奮しているようだ。やっぱり裁縫女子にとっては聖地みたいなもんなのかな。俺にとってのアニ某とかとらの某とかみたいなもん?
白川はフリルや布やその他もろもろをすごい速さで俺の持つかごに入れる。時折、
「どっちの色がいいと思います?」
なんて聞かれるが俺にはさっぱりわからない。
まぁどう答えても、
「うーんやっぱりこっちですね。」
なんて言って俺の意見はあまり汲まれていないようだしなんでもいいのだろう。
しかしただの布だと侮っていたが10何人分となると結構重い。これを持つ役目が果たせただけでも今日来た甲斐があったかもしれない。
・・・。
白川が選び、委員長が電卓を弾き、なんとか予算内に納得できる素材が集まったようだ。
「大丈夫ですか?」
「なんとか。」
両手に数キロはあろうかというもろもろの塊の入った袋を持つ俺。正直少しつらいが、本日の俺の唯一の仕事だろうしこれくらいは全うしたい。
「せっかくだしもう少しなんか見ていかない?」
委員長の提案に白川は俺の方を見る。
俺のことは気にするな、という念を込めた目線を返すと白川は、
「そうですね。せっかくですし少しだけ。」
と委員長に返答した。
・・・。
・・。
・。
俺は前々から日本全国にあるショッピングモールに対して言いたいことがあった。
なぜ、女性ものの下着の店が普通の店の並びに平然と並ばせてしまうのか。
どのショッピングモールも共通してこんな店の配置をしている気がするが、何かそういう協定でも結んでいるのだろうか。
そもそも、他の男子諸君はなんとも思わないのだろうか。これを気にしているのは俺みたいな童貞野郎だけなのか?
いや気になるだろ。生涯で目にする分以上の量がなぜか通行客に見やすいように陳列されている様はどう考えても気になるだろ。
わかってる。ただの布切れということも、この店には男のことなど眼中にないということも。
しかし気になるものは気になる。なんかファンシーな雰囲気の色使いの店内と合わさって逆にいやらしく見える。
せめて女子しか行かないようなコーナーに店を置いてくれよ。
・・・なんでこんなことを言っているかというと、理由はつい5分前の出来事にある。
「あ、この下着可愛いー」
「ほんとですね。」
「・・・。」
「しかも結構安い!」
「どうやら今週は開店セールみたいですよ。」
「・・・・・・。」
「あーあれもかわいい。」
「あ、ちょっとまってください!」
「・・・・・・・・・。」
それから5分がたった。
と言っても委員長が奥に行ってから、数十秒後、白川が戻ってきて。
「あの・・・ごめんなさい。すこしいいですか?」
「・・・早くしてくれよ。そこのベンチで待ってるから。」
「ごめんなさい。」
「いやお前じゃなく委員長に言ってくれ。」
というやりとりがあった。
そんなわけで俺は大量の布が入った袋に挟まれながら斜向かいのベンチから下着ショップを眺めている。
・・・。
「あ」
それから数分後2人が出てきた。
「おまたせ。ごめんね~」
「ごめんなさい。」
「いや、まぁ、いいけどさ・・・」
どうやらふたりともお眼鏡にかなう品に出会えたらしい。
・・・・・・いかん、つい想像してしまう。
「じゃあ帰るか。」
ここで立ち止まるのは色々良くない。
「あ、最後にもうひとつだけ寄らせて。」
といって最後に委員長の行きたい店に行くことになった。
・・・。
「ここは?」
「クレープやさん!」
連れて行かれたところは昼飯時を過ぎてあまり混雑していないフードコートだった。
「最後にこれ食べて帰ろう。私からのお礼ってことで。」
「え。」「え?」
俺と白川の声が重なる。
「今日はお世話になったし、私からの気持ちとして受け取って。」
そう言って委員長は夏らしいアイスクリームのたくさん入ったクレープを俺達に渡してくれた。
「悪いです。お金払います。」
「いいのいいの本当に。白川さんがいなかったらもっと時間も手間も費用もかかってただろうし。」
「でも・・・」
でもそれは学校のお金で、このクレープ代は委員長のお金では、という白川の言葉が今にも聞こえてきそうだった。
「いいのか?」
「うん。さっきはごめんね。下着買うの付き合わせちゃって。それにありがとう。荷物持ってくれて。」
「・・・・・・。」
「さぁさぁ早く受け取ってよ。アイス溶けちゃう」
今度は俺から白川の顔を見る。
白川の表情を見るに、これは委員長に一本取られたなという俺と同じ気持ちのようだ。
だからふたりして委員長に伝える。
「ありがとう」「ありがとうございます」
色々あったが最後は全部許せてしまう、これがきっと委員長の委員長たる所以なのだろう。
「今日はありがとうね。」
「いえいえこちらこそ、ごちそうさまでした。」
その後高校に帰って教室に荷物を置き、本日のミッションは完了された。
「さいとーくんもありがとうね。」
「クレープ美味かった。」
「えへへ、良かった。」
「じゃあな。」
「ではまた。」
「じゃあね~~」
校門でふたりと別れる。
静かに歩き出す。
秋の訪れを感じさせる涼しいそよ風を浴びながら得体のしれない充実感を噛み締めていた。
人に求められる。人に感謝される。
それらを何の意味も何の価値もないと思っていた過去の俺は、もしかしたらぶどうの取れない狐だったのかもしれない。




