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俺だけがいる世界  作者: 北野こち
第8章 間違う季節の過ごし方
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98. 紅白萌合戦



 「では予算ですが・・・」

 我らが3組は全員で28人。そのうち女子は21人。

 「よって一人これくらいということになります。」

 うーーむ、という女子たちの声がクラスの至るところから漏れる。

 洋服の相場というものを知らないのだがその予算はあまり潤沢とは言えないものだろう。

 それにメイド服となると普通の服より意匠が凝ってそうだし余計に金が掛かりそうに思える。


 「お裁縫できるよーって人いますか?」

 「うちのクラスに手芸部いなかった?」

 「あー私たち手芸部だけど手芸してないから・・・」

 「そうだったね・・・」

 委員長とクラス女子のやりとりになんだそりゃと心の中で思ったがもちろんおくびにも出さない。

 そう言われてみれば白川にこの高校の手芸部の現状は聞いていたな。まぁ(自称)進学校の部活なんてそんなもんだろうとは思うが。


 ・・・ん?

 そうだ、うちのクラスにはひとりいるじゃないか。手芸部よりも手芸をやっているやつが。

 裁縫と手芸の違いを俺は存じ上げてはいないが多分同じようなもんだろう。

 「あ」

 目があう。

 そんなことを考えていたせいで無意識に白川の方を見ていたのだろう。

 だが、そんなことを考えていたせいで忘れていた。

 あの夏の夜のことを。

 夢だ何だ言っていたがもちろんわかっている。本当に起きたことってくらい。

 だが受け入れられないのだ。それを受け入れるということはなんか大きなことを受け入れることと同義なのではないかという漠然とした恐怖感のせいだ。

 なぜ白川はあんなことをしたのだろうか。

 その行為の一般的な意味合いは知っている。

 だがその一般解を白川に適用していいのだろうか。


 いや、そんなはずはない。

 あの夜、俺は寝る前にあらゆる可能性を考えた。なにしろ眠れなかったせいで時間は余るほどあった。

 その有り余る時間を持ってしても白川が俺に好意を持つ理由がわからなかった。

 だって俺だぞ。自分で言うのもアレだが、女子の言う清潔感も女子の言う気配りも、女子の言う頼りがいも何もかもがない。

 しかも白川は引く手あまたというかよりどりみどりというか、男の選択肢は無限だろう。

 どう考えても俺を選ぶ正当性がない。

 ・・・・・・。

 やはりいくら考えても思考が堂々巡りだ。

 けどだからといってあの一件を忘れられるほど俺は経験豊かでも豪気な人間でもない。


 ああもうどうすればいいのか。もう一生白川の目は普通に見られそうにない。

 「とりあえず今日はこの辺にして続きは明日にしましょうか。」

 結局裁縫リーダーの問題は明日に持ち越しとなって今日はお開きになった。


 

 帰ろうとする人を避けるように一度教室を出て大回りで自分の席にを目指す。きまずいしさっさと帰ろう。

 「斉藤くん!」

 「うおっ。」

 帰る準備をする北本の後ろを通り自分の席に着くか着かないかというタイミングで前の席から大きな声が飛んでくる。といってもみんなの帰る喧噪にかきけされて他の人には気づかれていないようだが。

 「ちょっと。」

 「おおおお。」

 俺はすごい勢いで手をひかれる。



 

 教室の外。図書室に向かうまでの人気のないところに連れて行かれる。

 あまりに想定外の出来事にさっきまでの気まずさを思い出している暇もなかった。


 「なんだなんだ。」

 「・・・・・・」

 すーはーすーはー。白川は大きく深呼吸する。それにあわせて動くとある部分にどうしても視線が行くが今はそんなことを悠長に楽しんでいる余裕はない。


 「あ、あの日のことは、一切忘れてください!あの日は疲れていてどうかしていました。だから気にしないでください。というか忘れてください。今すぐ忘れてください。二度とあの日のことを金輪際思い出さないでください。必ず忘れてください。いいですね!」


 言い終わる頃には白川の息は上がっていた。こんなにまくしたてて喋る白川は初めて見た。

 酸欠のせいなのか他の理由があるせいか色白の白川の顔はこれまた初めて見るほど赤くなっていた。


 「お、おう。わかった。」

 「わかってくれたならいいんです。」

 「ああ・・・」

 「・・・・・・」


 飲み会で自分より酔っている人が近くにいると酔いが覚めるというのは聞いたことがあるが、どうやら恥ずかしさもそれに似た性質があるらしい。

 さっきまでの俺の気恥ずかしさはどこへやら、息を切らしながら赤い顔してうつむいている白川を見ていたら急に冷静になってきた。

 だからこんなことも冷静に言えるのだった。


 「そろそろ手離してくれない?」


 

 あっと言った白川の顔があっという間にもう一段階紅潮したのだった。

 

 



 

 翌日。

 「おはようございます。」

 席に着くやいなや白川に挨拶される。

 「お、おお。」

 いつものことだがなんかいつもより圧を感じてたじろぐ。

 「おはようございます。」

 「お、おはよう。」

 白川はにこりと微笑む。

 ふぅ。どうやら許されたらしい。きっともう"あの件"の話はするな、これまで通りにしろ、ということだろう。

 

 「なにかあったんですか。」

 「興味ないなら聞くなよ。あとなにもない。」

 朝から本を読んでいる北本が興味なさげに聞いてくる。

 「そうですか」

 またまたそっけなく返事をして文庫のページをめくる。

 ・・・これはほんとうに興味がないという意思表示なのか、それとも信じていないという意味なのだろうか。


 俺の読心術では北本の心境を推し量ることはできなかった。

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