9. 小テストはめんどくさい。そして掃除はもっとめんどくさい。
今日は珍しく朝から勉強をしている。朝ごはんを食べながら単語帳を開き、必死にテスト範囲の英単語を頭に詰め込む。
よく漫画のおバカキャラは「なんで日本人なのに英語の勉強しなきゃいけないの~」なんて言っているが、今はまさにそんな気持ちである。
俺は英語が苦手である。他の教科が得意というわけではないが、殊英語は自信満々に苦手と言える。無機質なアルファベットの並びにどうしても馴染めない。
英語に苦しめられるたびに生まれる時代が悪かったと時代のせいにしてしまう。
もう少し前の時代なら今ほど英語をやらずにすんだかもしれない、もう少し後の時代ならITの発達で自動翻訳が完成されているかもしれない。
しかしいくら時代を呪っても1限目の小テストがなくなるわけではない。そんなこと考えるくらいなら単語の一つでも覚えたほうがいくらか建設的だろう。単語帳を片手に急いで家を出た。
昼休みになり例に漏れず図書室に向かう。相変わらず閑散とした図書室であらかじめ落としておいた将棋アプリを起動する。おそらく今週は部活で将棋三昧になると思われるので自主練としてやっておこうという算段だ。
麻雀はさほど気にならないが将棋はやはり静かなところでやるに限る。
・・・。
・・。
・。
なんだろう、視線を感じる。
今日もこの図書室はじいさんと例の女の子しかいないはずだ。
気のせいだろうということにして将棋を続行した。
放課後になり、部活に行こうとする。
そういえば北本が新しく部員となった。3人で行くのが自然だろう。別々に行ってもいいと思うんだけど、きっと白川が許してくれないだろう。
どうせそうなるんだから先に声をかけておこう。今思うと、このときの俺はどうかしていた。
「部活、俺達と一緒に行かないか。」
努めて自然に話しかける。
「お誘いは嬉しいですけど斉藤くんは今日掃除ですよね。待っていてもいいですけど。」
「…先に行っててくれ。」
・・・。
慣れないことはするもんじゃない。金輪際不用意に話しかけるのはやめておこう。
恥ずかしさをごまかすように自分の机を前に押した。
掃除の班員で分担を考える。
ほうき担当と机を運ぶ担当があるが、力仕事ということで俺と班のもうひとりの男子である鈴木が机担当となった。
最初は女性陣が教室の後ろ半分を掃くので男たちは手持ち無沙汰だった。自然と会話が生まれる。
「お前もうまくやったよな。あの白川を部活に引き込むなんで。」
またか。前もこんなやり取りをしたような気がするぞ。
「俺は何もしていない。あいつが俺を巻き込んだんだ。」
「まじかよ、白川って変わった男の趣味してるんだな。」
「おい。」
「あ、わるいわるい。」
否定したかったが、編み物の話をする訳にはいかないので仕方なく甘受した。
「でも白川はうまくやってるよな。あんなかわいけりゃ同性から嫌われてもおかしくねーのに。」
言われてみればそうだな。これもあいつの人望がなせる技なのか。
それでも多少そういう因子はあるのだろうか。俺が見る限り白川は周りと上手くやってそうだけど。
しかしそういうのは人の目がないところで行われるのが常であろう。
俺よりは鈴木のほうが詳しそうなので興味本位で尋ねた。
「実際そういうのあるものなのかね。」
「俺も部活で聞いた話なんだが、どうも他のクラスでは女子の間でそういうのがあるらしいぜ。」
男に生まれてよかったなと鈴木は笑いかけてくる。まったくもって同感だ。そんな面倒事に巻き込まれるのはごめんであるし、巻き込まれないにしても近い距離でそういった諍いがあるのは気分が悪い。
俺はさっぱりした人間関係を好む。だから男同士の人間関係は気楽でいい。友情はどうか知らない。友情を持ったことがないので。
そんなことを話していると机を運べとの号令がかかった。
二人でせっせと机を移動させる。
・・・。
それにしても2人で動かすにしては多い気がする。次は教室前方を掃くために机をすべて後ろに固めるのだが、これが結構骨が折れる。さらにその後元の配置に並べる作業がある。思ったよりも重労働だ。これを週1ペースでやらないといけないのは面倒この上ない。
端では女子共が楽しそうに談笑している。
まったく、こんな思いをするなら女に生まれればよかった。




