1. 高校生活の始まり。そして彼の平凡な生活の終わり。
孤独は一人ではわからない。
「どうかなにもない日々を送れますように」
そう願いながら、人々の期待と不安が入り交じった空気に一歩足を踏み入れた。
俺、斉藤正満は春山高校に入学した。近隣では最も偏差値の高い高校として知られている。いわゆる進学校だ。
俺がこの高校を志望した理由は3つあった。
1つは勉学にしっかり励みたかったから。将来の夢も、何かやりたいこともないので、とりあえず勉強は頑張ってみるかと中坊の俺は考えた。
2つ目は進学校に入れば面倒な人間関係を強制されることはないと考えたから。誤解のないように言っておくが、俺は他人と関わること全般が嫌だとは思っていない。かかわりを強制されることが嫌いなのである。
そして3つ目、春山が家から最も近い高校だからだ。
無事志望校に入れた喜びに頬を緩ませながら新入生のクラス一覧が書かれているとこをまで歩いた。
張り出されたクラス表の3組に自分の名前があるのを確認し、下駄箱に向かおうとした。
その時、どこからともなくざわめきが起こった。
振り返るとこちらに向かって歩いてくる女生徒が目に入った。背は150cm強、きれいな長い黒髪が特徴的で、容姿端麗という言葉が自然と頭に浮かんだ。
どの学校にもマドンナはいるんだなぁなんて考えながらも、俺は気に留めず下駄箱へ歩みを進めた。
一般にかわいい子はコミュニティの中心に位置し、その近傍に位置する人とのみ交流を持って学校生活を満喫する。そしてその界隈にいるイケメンと付き合い出すまでは固定された流れである。
間違っても俺みたいな男子生徒Cと関わることはない。
街で偶然芸能人を見かけたような気分で校内を歩き、無事1年3組までたどり着いた。
することもないのでHRが始まるまで自席で寝ていよう。
「みなさんご入学おめでとうございます。」
担任の先生と思われる声で目が覚めた。おばさんの先生だ。もしこの人が担任なら、あまり干渉してこないタイプの先生であることを祈りたい。
「ではみなさん、これからの高校生活をともにする仲間に自己紹介をしましょう。じゃあ出席番号1番の方から」
その一言で恒例の自己紹介タイムが始まった。名前と自分の好きななにかを言うとのことだ。
次々と、初めて見る顔と名前と好物の情報が脳に入ってくる。これまでまともに交友関係を持ってこなかった俺には当然半分も覚えられない。最初の2,3人で諦めてしまった。これも2分後には忘れているだろう。
・・・。
入る前からわかっていたことだが、実際に見るとどうしても女子の比率に驚く。文系が強い高校ということもありクラスの7~8割が女子だ。
しかし共学でも中学でぼっちだった俺には些細なことである。むしろ女性中心でイベントごとが執り行われれば俺が関わらなくても許されそうだし悪くない。
そんな事を考えていたら自分の番が回ってきた。
軽く済まし着席すると、向けられる目線がどっと増えた。
「白川香織です。」
後ろから透き通るような声が聞こえた。
振り返って見てみるとそこには先程見たマドンナが立っていた。
他のクラスメイトは彼女が同じクラスであることを喜んでいるようだ。実際俺も嬉しい。おかげで俺は男子生徒Aにランクアップできた。席が近いから画面に入る頻度も他のモブよりは多いことだろう。
つつがなく全員の自己紹介が終わった時ちょうど正午を知らせるチャイムが鳴った。
高校生活はじめての昼休みである。
後ろにできている人だかりをよそ目に一人弁当を食べていた。
しかし背後が騒がしいというのはどうも居心地が良くない。仕方なく急いで昼食を済ませ校内探検に繰り出すことにした。
教室の居心地を考えると他にリラックスできるスペースがほしいところである。
それは案外早く見つかった。安直な考えで、落ち着けるイコール静かイコール図書室ということで図書室に来てみると驚くほど人がいない。
なるほどはじめての昼休みだ、ここで今後のクラスの立ち位置が決まると言っても過言ではない。大多数の人間は各々のクラスで自身の立ち位置を模索しているのだろう。
ただそれでも人が少ないことには変わりない。受付に司書と思われる好々爺といった感じのおじいさんがいるだけである。普段いる教室から離れていることもあり普段も利用人数は少ないのだろうと予想できる。
特に図書室奥にあるスペースが気に入った。資料置場かなにかだろうか、奥まった空間に椅子と机が無造作に置かれている。開け放たれてはいるが、扉もあることから一応独立した部屋らしい。
早速座り、スマホで麻雀をしながら昼休みの間過ごしてみたが、誰も来ない。初日からいい場所を見つけた。今後の憩いの場としてありがたく使わせてもらうことにしよう。
午後の授業が終わり、俺は帰宅の準備を始めた。
「これで授業は終わりです。ここからは部活見学の時間が始まります。みなさん、是非自分にあう部活を見つけてみてください。」
部活ねぇ。すっかり失念していた。しかし元から部活に入る気はさらさらなかったので帰宅させてもらおう。
「春山高校では全員どこかの部に入ることになっていますので。」
「・・・は?」
なんでも勉強と部活の両立をスローガンに掲げているらしい。進学校でありながら部活でも結果を残しておりそれがこの高校の人気の理由のひとつだという。
受ける前にもっとしっかりリサーチしておくべきだった。不必要な人間関係の構築を避けてこの高校に入ったというのにやりたくもない部活に入ることは本末転倒以外の何物でもない。
いや、まだ本腰を入れて全部の部活を見ていないじゃないか。もしかしたら過去に同じく部活に対してやる気のない人が隠れ蓑に作った偽装部活があるかもしれない。
一縷の望みを胸に教室を出た。
結果、そんな部活はなかった。
そうだよな、ここにいる人々は部活動が盛んなことで有名な高校を志望して入学した人ばかりなんだ、そんな部活が必要なわけがない。
入学初日にして夢見ていた何もない平凡な日々が崩れようとしている。
いや、まだ時間はある。部活動お試し期間は2週間あるんだ。もしかしたら見落としがあるかもしれない。この2週間で見つければいい。
もしなかったら・・・、なんとなく幽霊部員転職難易度が低そうな美術部かパソコン部に入って即幽霊にジョブチェンジすればいい。
とにかくこの2週間は帰るわけにも行かないのでどこかで時間を潰そう。
今なら教室には誰もいないだろうから教室にいよう。そう思い教室に向かって歩きだした。
しかし思惑は外れる。担任がまだ何かをしているようで教室の中に人影がある。あの担任のことだ、部活見学の時間に一人教室に帰ってきた生徒をほっておくわけがない。間違いなく話しかけてくるだろう。それは避けたい。
どうしようか考えていると今日の昼休みを思い出した。
そうだ、あそこに行こう。おじいさんが気になるが、多分何も言ってこないだろう。少なくとも教室に特攻するよりは断然良い。せっかく見つけたパーソナルスペース、早速活用させてもらおうではないか。
図書室に到着し静かに扉を開く。案の定例のおじいさん以外誰もおらずほっと一息つく。そのおじいさんもこちらを一瞥すると我関せずといった感じで本の整理に戻った。俺を見たときおじいさんの口角が上がったのは気のせいであろう。
現在4時45分。5時半ごろなら帰っても不審に思われないだろう。残り45分麻雀でもやって過ごしていればいい。部活の再調査は明日部活の一覧をもう一度見直そう。なにより今日はもう疲れた。
5時半少し前、目を覚ます。
どうやらうたた寝してしまっていたようだ。
時計を見るとちょうどいい時間だ。今日は帰ろう。
立ち上がろうとした時、人の気配を感じた。
思わず顔を上げる。
「こんにちは斉藤くん。」
「えっ・・・」
そこに立っていたのは白川だった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
人生初の執筆ということで、拙いところ、読みづらいところあると思いますが、今後も続きを投稿したいと思いますのでよろしくお願いします。




