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異世界創世のグリモア物語 ―夢想無双クロニクル―  作者: 織星伊吹
第四章 僕がすべてのこの世界で

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エピローグ

「カズラさーん! お邪魔しますよー!」


 元気いっぱいの声で扉を開けて、少年は待ちきれない様子で靴を脱ぎ捨てては整える。それに続き、だらだらと面倒くさそうに靴を放り投げるのは、少年の妹である。


「こらヒカリ、ちゃんと靴揃えろよ。またカズラさんに叱られるぞ」

「だってー……めんどくさいんだもん」

「ったくもー……ホントしょうがねーなぁ」


 頭を掻きながら、兄のアスナはヒカリが脱ぎ散らかした靴をきちんと並べる。


「……おにーってさ、なんでそんなに細かいの? 生きてて辛くなんない? イロイロと」

「兄に向かってなんてこと言うんだお前は! どうしてヒカリはそんなにものぐさなの!」

「え? 人生に疲れてるからだよ。簡単なことじゃない」

「一体お前は誰に似たんだ……まあ、父さんか」


 自らの父に呆れつつ、アスナは大好きな部屋を訪れた。


「おお、アスナくんにヒカリちゃん。また大きくなった気がするなあ……今幾つだっけ?」


 優しそうな笑みを浮かべたカズラが、微笑みながら子供たちを迎える。


「俺は十二歳になりました。ヒカリは十歳になったばっかです」

「歳とりたくなーい」

「ははは、まだ十代になったばかりなのに面白いことを言うね、ヒカリちゃんは」

「カズラのおじちゃんはすごいおじさんになったね。パパより老けて見えるもん」

「あたた……これは痛い」

「ヒカリこら! なんてこと言うんだ、このおバカ!」

「いいよいいよ。それより、ほら、これが新作だよ。渾身の出来なんだ。是非読んでみてよ」

「わー! ファンタジー? ねえまたファンタジーなの!?」


 キラキラした瞳で、アスナがカズラに訴える。


「なーんだ。ヒカリはもっと怖いのが読みたいのになー、人がいっぱい死ぬやつとか」

「お前が大きくなったとき、どんなやつになるのか、おにーは凄く心配だよ……」

「ハッハッハ。じゃあ次はヒカリちゃんのために、ホラーか伝奇小説でも書いてみようかな。……担当さんの壁を乗り越えられるか不安だけど」


 カズラはうーんと唸りながら席を立ち、「飲み物を取ってくるよ。何がいい?」

「冷たい麦茶が良いです!」

「ヒカリは“ろーずひっぷてぃー”が良いー」


 各々の回答に笑みを浮かべたカズラが居なくなると、この部屋はとても大きく感じる。

 壁一面本棚だらけのこの部屋が、アスナは大好きだった。無類の物語好きの少年にとって、ここは天国のようなものだ。カズラの新作に手を付けたいのは山々だが、その前にアスナはもう一度とある物語が読みたかった。

『妖精の王様』それは、この部屋の中でアスナが最も好きなお話。どこかへ旅に出たまま帰ってこなくなったカズラの兄が残したという作品らしい。何度もめくったページなのに、毎回とてもワクワクしてしまう。アスナが、いつものように手をかけようとしたときだった――、


「おにー、なんかヘンな本がある」


 ヒカリが指差した本は、ファンタジー世界に出てくる魔道書のような形をしていた。


「こんな本あったけ?」


 ヒカリが首を傾げる。

 アスナは、とても不思議な感覚を味わった。まるでこの本が、この世界のものではないような気さえしてくるのだ。


「ヒカリ、それおにーに貸して」


 ヒカリから本を受け取り、アスナはその分厚いカバーをめくった。黄色みを帯びた羊皮紙がぱらぱらと心地良い音を鳴らし――本が金色に輝く。二人は黄金の光に包まれ――。


 目を開けたら、そこはもうアスナたちの知る世界ではなかった。


「うわぁー! なんだこれ!」


 瞳を見開いて驚愕した表情のアスナ。ヒカリは口を開けたまま固まってしまっている。


 地平線の彼方にはたくさんの街や、古風な塔。美しい渓谷が見える。

 まるで、ロールプレイングゲームの世界のようだった。


「凄い……凄すぎる! まさかここって、ファンタジーの世界!?」

「えーやだ、帰りたい」

「早いな! 少しだけこの世界を冒険しようよ!」

「もーやだー、こういうときのおにーはマジでめんどい」

「そういうこと言わないでっ!」


 二人で言い争いをしていると、カラフルな空に大きな影が映った。それが――少しずつ、こちらへ近づいてくる。


「待って。おにー……なんか来るよ?」


 ヒカリが怯えたようにアスナに引っ付く。アスナも、緊張した面持ちでそれを待ち受ける。


 それは――――巨大なドラゴンだった。本当にゲームやファンタジーの世界に出てくるような。アスナがそう思ったとき、ドラゴンから誰かが降りてきた。


「こんなところに人が来るなんて珍しいな。…………もしかして――」


 地に足を付けた少年がアスナたちを見つけると、少年は瞳を丸くした。


「あ、あなたは誰ですかっ!」


 アスナが、ぶるぶると震えながらヒカリを庇う。


「勇敢な子だね。隣の女の子は、ガールフレンドかな?」

「違う。妹です」

「…………名前は?」

「俺がアスナで、こっちがヒカリ」


 アスナが告白すると、子供の王様のような派手な服装の少年が、にこりと微笑む。


「そっか。仲良しの兄妹なんだね。なんだか、僕の友達に凄く良く似ているよ」

「そ、そうなんですか……? あなたの名前は?」

「僕? 僕の名前はね――」



 少年は頬いっぱいにあどけない笑みを浮かべてから、




「ヒカゲって言うんだ」

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