12ー1(過去編7)
夏休みも、片手で数えることが出来るだけに迫ってきた。
相変わらずさくらは学校に来ない。
放課後になれば、アリアに会える。
そう思い、過ごしてきたひまわり。
そんな彼女には、やはり気がかりなことがあった。
それは、さくらのことだ。
あの日さくらの家を訪れてから、何度か様子を見に行った。
そして、そのうち何回かはインターホンを鳴らし、自身の訪問をさくらへ知らせたのだった。
しかし、さくらが彼女の目の前へ現れることは一度もなかった。
「今日こそさくらに会う。」
ぽつり。
ひまわりの独り言。
何回でも行ってやる。
うざがられても良い。
もう一度会いたい。
もう一度話をしたい。
放課後。
ひまわりが廊下を歩いていると、それは起きた。
ドスン。
背後から強い力。
ひまわりは、自分が押されたことに気づくのに、時間はかからなかった。
耐えきれず、床に倒れ込む。
咄嗟に上がる短い悲鳴。
それとともに、起こる笑い声の連鎖。
ひまわりは、それが自分に向けられているものだと、嫌でも分かってしまった。
泣いてたまるものか。
負けてたまるものか。
ひまわりの目尻に、熱い込み上げるものがあった。
それを堪えるひまわり。
それがいけなかったのだろうか。
泣いて許しを乞えば良かったのだろうか。
うつ伏せで床に倒れ込んでいるひまわりの身体のあちこちに鈍い痛み。
蹴られていた。
「やめて!やめてよ!」
ひまわりの悲鳴にも近い叫び。
当然、彼女の声はとどくわけがない。
それどころか、より酷くなる。
また、彼女の身体だけでなく、心を傷つけるような罵倒も浴びせ始めた。
身体を庇えば、言葉による暴力に晒される。
しかし、耳を塞ごうものなら、今度は身体が無防備になってしまう。
なぜこんなことになってしまうのだろう。
アリアと関わっただけで、この仕打ちだ。
自分がなにをしたというのだ。
アリアがなにをしたというのだ。
ただ髪の色が違うだけ。
ただ肌の色が違うだけ。
それだけで、アリアや、マリアは魔女などと差別されていた。
そして、そんな彼女らと関わったから、ひまわりもその対象になった。
周りと同じなのが、そんなに偉いのか。
周りと違うことが、そんなに恐ろしいのか。
いや、違う。
自身も、あちら側の人間だった。
少数を忌み嫌い、距離を置いていた。
これが、その罰なのだろうか。
「だからね、貴女がアリアと友達になってくれて嬉しかったの。」
不意に思い出したマリアの言葉。
ひまわりの頭の中。
今の、彼女のそれは、幼児が描いた似顔絵のように、グチャグチャと不規則な痛みが支配していた。




