2ー1
「そう言えば化粧してそうになかったけど良かったの?」
「うん、平気。いつもそんなにしてないし、それに……。」
「うん?」
「多分皆、私のことなんて見てないから……。」
そう言う姫乃の顔は暗かった。
「はっち……。」
その後は無言であった。
通学路を歩くさくらとひまわり。
先ほどとはうって変わり、重苦しい雰囲気が立ち込める。
下を向き、猫背のひまわり。
こんな姿を、彼女の母が見たらなんと言うだろう。
「そんなことないよ!きっと皆はっちのこと……それに私だってはっちのことちゃんと見てるし……。」
「優しいね、ひのっち。ありがとう。」
さくらの声に微笑むひまわり。
その笑みは、表面上の物で、悲しげに影を帯びていた。
学校が近づくにつれ、同じ制服を着ている生徒が多くなってきた。
それに比例するようにひまわりの表情が曇っていく。
「……はっち大丈夫?ファミレスでも行く?奢るよ?」
彼女を心配するさくらが言った。
そう言う彼女の顔は、眉が垂れている。
そして、泣きそうであった。
「大丈夫だよ!無遅刻無欠席が私の唯一の取り柄なんだから!さっ、行こ。」
笑顔で言うひまわり。
その言葉は、さくらにかけられたものではないように思えた。
それは、むしろ彼女自身に言い聞かせたようだった。
二人が校門を潜ると、一角に人集りが出来ていた。
またか。
呆れてものも言えないさくら。
しかし、ひまわりは違った。
その集りの彼らと同じく目をキラキラと輝かせている。
「……珍し、秋風先輩が朝練サボってないんだ。……行って来たら?」
あははと苦笑いのさくら。
「良いの?」
ぱあっ。
彼女の名前に恥じないような、向日葵のような明るい笑顔。
そんな顔をされてしまっては嫌と言えない。
恐らく彼女がこの学校で唯一楽しめるものなのだろう。
さくらは首を縦に一度降った。
「私は下駄箱で待ってるから行ってきな。」
「うんっ!」
たちまち、ひまわりは群衆の一人になった。
彼女を含めた彼らの視線の先。
そこに、彼女はいた。
テニスコートで汗を流す女子生徒。
秋風かおるだ。
ひまわり達の一つ上の学年の、三年生だ。
ソフトテニス部の部員で、三年連続でレギュラーに入っている部のエースだ。
背が高く、すらりと長い手足。
そこから繰り出される鋭いスマッシュに、黄色い歓声が上がる。
夏休みに引退する前の、残り少ない部活を楽しんでいるのだろうか。
時折笑顔が見られる。
そこでもまた、黄色い歓声。
その中には、ひまわりのものも含まれていた。
次章
2ー2
2018年8月18日
投稿予定。