おいなりさま
久しぶりのホラーです。
私が昔、住んでいた村の話だ。
私の村は限界集落だった。同級生は1人、子供は自分の兄弟を入れて4人しかいなかった。
小学校はバス停まで30分かけて歩き、そこからバスで10分かけていく。
もちろん近くにお店なんかないし、あるのは田んぼと畑ばかりだった。
朝6時に起きて7時に家を出る。そんな朝でもおじいちゃんおばあちゃんはすでに起きていて畑仕事を始めている。
「おはようございます!」
「だいちゃんおはよう。気を付けていくんだよぉ」
「はい!」
この挨拶をした、この人はキクエさん。80歳を越えたおばあちゃんだ。キクエさんは家の近くにこの時間よくいて手押し車に座っていた。小学校低学年の頃、毎朝挨拶をするのが日課になっていた。
「だいすけ!おそいよ!7時5分待ち合わせだろ!」
「わるい!昨日夜更かししてDSやってて寝過ごした。」
「バス来ちゃうから行くぞ!」
「うん!」
こいつは同級生で幼馴染みの大智。唯一歩いていける距離に家のある友達だった。ついでに私は田部大輔だ。
小学生高学年のころ、いつからだろうか私には一ヶ所だけ怖いと感じる場所があった。
家からすぐ出たところにある神社だ。
狐の置き物があるのできっと狐を奉っているのだろう。
しかし、神社と言ってもそんなに対した物じゃなくて、太めの丸太を4本組んだだけのような鳥居と石でできた神棚があるだけである。
物心がついた頃のはあったし、鳥居の木の感じを見るにしても、多分産まれるずっと前からあったのだろう。
なぜだか高学年になって急に怖くなり始めたのだ。
なぜ怖いと感じるのかはよくわからなかったが、行ってはいけない。鳥居をくぐってはいけないと幼いながら本能的に感じていたのかもしれない。
思い返してみると小学校に入る前のころ、親と家の周りを散歩したとき鳥居をくぐろうとすると親に止められた気がする。
まぁ、初めての小学校への登校の時くぐったのだが。
そんな神社が家を出てすぐあったのだ。
中学生になると自転車通学になった。歩いて神社の前を通らなくてすむので怖さが減ったような気がした。
しかし、部活を始めたので小学校の頃より帰りが遅くなり帰ってくるときは怖かった。
少し前にも話したが私が住んでいた村は限界集落だ。夜8時を過ぎるとおじいちゃんおばあちゃんは寝てしまうので家からこぼれる光もない、歩いている人もいなければ走っている車もない。
だからなのだろうか、街灯も少ないうえに所々電球が壊れており帰るときは決まって真っ暗だった。
「はぁ…はぁはぁ」
ギーギー
家に行くまでの道は上り坂だ。自転車の立ち漕ぎで上がっていく。部活を終えて疲れた足にはとても辛く、たまに降りて押すこともあった。
「はぁ…つかれたぁ…。こっからは押してくか…」
独り言は夜は良く響く。
いつもなら早く帰りたいという意思と部活の疲れ、空腹などで周りのことなどは考えないで帰るのだがこの日は違った。
部活の休憩時間のことだ。
「おい田部!これやったことある?」
「え?これって?」
「こっくりさんだよ。知ってるだろ?」
「ん。まぁ知ってるけどそれが?」
「やろうぜ!」
「えー…」
「なにビビってるのかよ?」
「ち、ちげぇよ!」
「じゃ、やろう?」
「うん…」
思春期特有の強がりで普段は絶対にやらないであろう【こっくりさん】をやったのだ。
「田部、動かすなよ…」
「お前こそ…そんなこと言って動かしてるのお前だろ…」
ガチャ。 急に部室の扉が開く
「わっ!」
「どうした大きな声だして。それより田部、秋谷もう休憩おわってる時間だぞ?早くいけ。」
入ってきたのは2個上の鮫島先輩だった。
「鮫島先輩!すいませんすぐ行きます!1抜けた!」
そういうと秋谷は指を離して部室を出ていってしまった。
「え、これって最後の人がこっくりさんに帰ってもらわないと行けないんじゃ…確か…こっくりさん。おかえりください」
指は勝手に動き出す。
い・い・え
「…う、うう…こっくりさん、おかえりください…」
い・い・え
5・6回やっただろうか?しかし、こっくりさんは帰ってくれない。
ガチャ。扉がまた開く。
「おい!!田部!!!先輩たちが練習してるって言うのになに遊んでるんだ!!!」
入ってきたのは岡田先生。部活の担当だ。
「で、でもこっくりさんが…」
「小学生でもあるまいし、そんなのやめて早く練習にいけ!!」
「は、はい…!」
そうしてこっくりさんを帰らせることもなく指を離して練習に向かったのだった…
…4分ぐらい押して歩いただろうか。自分の家が見えてくる。そして同時に神社も目に入る。
さっきまで押すのに必死だったから忘れていたがその神社をみた途端、部室でやったこっくりさんを思い出してしまったのだ。
「早く帰らなきゃ…」
急に怖くなり、つい早足になる。
坂道をずっと自転車を押してきたので疲れたのか、神社の前に来たときどっと重くなる気がした。
もう少しで家につく。そんなときだった。
自転車の籠が明るく照らされているのに気づく。後ろから照らされているようだ。
「おかえり。だいちゃん…」
聞き覚えのある声が聞こえる。キクエさんだ。
「おかえりなさい。キクエさん…こんな夜にどうしたんですか?」
「いや、だいちゃんがそろそろ帰ってくる頃かなって思ってね。最近、朝も挨拶してくれないから」
「朝はいつも急いでて…すいません…」
「謝らないで。そんなつもりで言ったんじゃないよ。いい息子になって、お母さんの育て方がいいんだね」
「お母さんもお父さんも放任主義なので育ててもらったつもりはないんですが、でもその育て方が良かったのかもしれないですね。」
「そうだよ。早くお家に帰りなね?心配してるよ。」
「そうですね。」
「こいつは私が帰しておくから。」
「ありがとうございます…」
私は後ろをけっして見なかった。
そこからは足取りが軽く思えた。なのでまた自転車に乗って家までかえった。
高校生になると学校に行くのにバスや歩きでは行けないので親の車で行くことになった。毎日送り迎えだ。田舎に住んでいる人ならあるあるだと思う。
「大輔。今日、家に帰ったら犬の散歩に行ってくれ。」
「やだよ。面倒だし、お父さんがいけばいいだろ?」
「今日は夜勤なんだ。」
「帰ってきてからじゃ7時過ぎちゃうよ?」
「お母さんもご飯の用意したり忙しいだろうし、孝輔は明日テストだって言ってたからお前しか暇じゃないだろ?」
「別に暇じゃないよ俺だって。。」
「まだ1回も散歩行ったことないだろ?なんで行かないんだ?」
「…めんどくさいし帰りが遅いからだよ」
「まぁ、今日は頼んだぞ」
家に帰るとやっぱり7時を過ぎていた。街灯のない私の村は真っ暗だ。
「あら!大輔が散歩にいくの?めずらしいわね。」
「俺だって行きたかねぇよ。」
「ブーブー言わないで早く行ってらっしゃい」
なにもない暗闇を手に持った懐中電灯の明かりを頼りに歩いていく。虫の声と暴走族のバイクの音が聞こえてくる。
片手に犬の綱を持ち、もう片方でスマホをいじる。高校生なら誰しもするであろう、ながらスマホだ。
「あれ?道間違えたな…」
ながらスマホをしながら歩いていたので一本違う道に来てしまったようだ。
「そういや、こっちの道通るのは2年ぶりか…」
その道は小学校から中学校にかけて通学に使っていた道だった。
懐中電灯の明かりに照らされ、あの神社が見えるはずだ。
「え…」
しかし見えたのは覚えていた神社ではなかった。
鳥居は崩れ、神棚は割れていた。そこだけ嵐がきたかのような異様な様子だった。
そして気づく。狐の置き物が割れていることに。そして新たに狐の置き物がおかれていることに。
新たにおかれた狐の置き物は赤く色がついている。
私はそれからすべてを悟った。
犬はけっしてそれ以上近づこうとしない。
私もこれ以上進むのをやめて家に引き返した。
そして足が重くなった気がした。
「あれ、帰ってくるの早いのね。」
「ん、まぁ。」
「なんかあったの?顔色悪いよ。」
「なんでもない。なぁお母さん。あの神社っていつ壊れたの?」
「ん?今日の朝は壊れてなかったはずよ?」
「そっか…」
「壊れてたの?」
「うん…それにすごい荒れてた…」
「なるほど…だからか…kdodklwldjhdkskjkkokurisan」
「はい。今日のカウンセリングはここまでね。」
「はぁ…はぁ…」
「水でも飲んで?」
「…あ、ありがとうございます。」
「精神安定剤出しとくからね。でも飲みすぎはだめだよ?」
「…はい。あの…」
「どうしたの?」
「私はまだ赤いですか?」
後半少し?かなり?良くわからなかったかもしれないですね